「実家って、ご両親私のこと知らないのになんで?」


「来ればわかるから。」


蓮のまっすぐな眼差しに耐えられなかった私は、わかったと返事をした。


バスで20分、車内ではほとんど会話がなかった。私はどうすることもできず、窓の外を眺めることしかなかった。


そしてバス停から15分歩いた先にある一軒の家の前で立ち止まり、ここが実家だと言った。


車も、人の気配もない。出かけているのだろうか。蓮は何をするつもりなのだろう。


「大丈夫、変なことはしないから。」


そう言って蓮はゆっくりと歩き出し、玄関の戸を開けた。


「…ただいま。」


蓮の声に対して中から反応はない。


「とりあえず、あがって。」


言われるがままに家の中に入ると、誰もいなかった。


「今、留守なんだね。少し待っ…」


そう言いかけた私は途中で、言葉を失った。
目の前に仏壇があり、その前には蓮の両親と思われる遺影が置かれている。


「ごめん、びっくりさせて。でも重要なのはこっちじゃなくて、俺が渡したかったのはこれ。」


呆然とする私に、1枚のハンカチを差し出した。