目を覚ますと、桔平くんの顔が至近距離にあってドキッとした。そうだった、家に泊まったんだよね。夢じゃなくて良かった。

 桔平くんは、すやすやと寝息を立てている。寝顔は初めて見たけれど、やっぱり綺麗。どうしよう、すっごく触りたい。
 そっと頬に触れてみた。全然起きない。よし、頭撫でちゃお。

 思ったよりも柔らかい髪。頭を撫でながら寝顔を眺めていると、ものすごく愛おしい気持ちが湧き上がってきた。

 ていうか、今は何時なんだろう。この部屋には時計がないから、スマホを見ないと分からない。でもアラームはまだ鳴っていないし、多分9時前だよね。

 半身を起こすと、カーテンがない窓からは朝の光が差し込んでいた。ずっと雨続きだったけれど、今日は天気がいいみたい。桔平くんが描いていた風景画がやわらかく照らされて、キラキラと輝いている。

 授業は3限からだから、時間には余裕がある。桔平くんもお昼から学校へ行くって言ってたし、もう少し寝ていても大丈夫かな。スマホは桔平くん側のサイドテーブルに置いていて、下手に取りに動いたら起きちゃうだろうから、アラームが鳴るまでは横になっておこう。

 桔平くんが、もぞもぞと動いた。でもまだ目は閉じたままで、すぐに寝息が聞こえてくる。
 くっついていいかな。うん、くっついちゃえ。

 桔平くんの左腕をそっと伸ばして、頭を乗せてみる。それでも起きないから、もっと近づいて胸に顔を寄せた。桔平くんの匂いは本当に落ち着く。すごく幸せ。

 しばらくくっついていたら、ふいに抱きしめられた。そして私の頭をポンポンとするから起きたのかと思ったけれど、桔平くんはまだ寝息を立てている。無意識?

 頭を撫でる左手が降りてきて、Tシャツの中に滑り込む。思わずビクッと体が跳ねた。あったかくて大きい手が背中を撫でて、肌が熱を帯びてくる。

「お、起きてる……?」

 小声で声をかけてみたものの、返事はない。寝たフリ?本当に寝てる?どっち?

 背中を撫でる手が止まって、また寝息が聞こえてきた。本当に寝てるんだ……この状態で。こっちは心臓が飛び出しそうだっていうのに。

 しばらくそのまま固まっていたら、また桔平くんの手がピクリと動いて、思わず声が出てしまった。

「んー……」

 桔平くんが目を覚ます気配がして顔を上げると、うっすら目を開けている。

「お、おはよう」
「……んー」

 また瞼が閉じられる。あれ、起きてない?そう言えば、朝弱いんだっけ。