ホウセンカ

 今更ながら、心臓が破裂しそうなほど脈打ってきた。私、桔平くんとキスしちゃったんだよね。しかも、かなりディープというかなんというか……。やばい、本当に顔から火が出そう。

 桔平くんは私の頭を撫でて、愛おしむように視線を向けてきた。

「好きだよ。愛茉のことが、すげぇ大好き」

 私も大好き。そう言おうとしたら、また唇が重なった。
 全然足りないのは、私の方かもしれない。ふやけてしまいそうなぐらい、何度も何度もお互いの唇を求めた。

「あぁやべぇ、帰りたくねぇ」

 おでこをコツンとくっつけて、桔平くんが言った。

「……と、泊まる?」
「そうしたいけど、帰るよ。すっげぇ帰りたくねぇけど、帰る。課題が終わってねぇ……」
「ご、ごめん。私のせいだよね」
「そうだな」

 こういう時に「そんなことないよ」って言わないのが、桔平くんらしい。場当たり的なことは嫌いなんだもんね。

「でも、オレが来たいと思ったから来たんだよ。どうしても無理な時は、ちゃんと言うし。だから愛茉も、思ってることは思った時に言って」

 ……いいのかな。本当に言いたいことを言いはじめたら、私は絶対に面倒だよ。自分の性格は、自分が一番よく知っている。

「この前、言っただろ。思いきり振り回して困らせてよ。嫌いなんてならない……つーか、なれるわけねぇんだからさ」
「……じゃあ」
「うん」
「桔平くんの課題が終わったら、デートしたい」
「りょーかい」
「それと」
「うん」
「毎日、LINEしたい」
「オッケー。あとは?」
「あとは……」

 本当は、まだまだたくさんあるけど……。

「……ほ、ほったらかしに、しないで……」

 今は、これが精一杯。
 結構勇気を出したつもりなんだけど、桔平くんは、ただじっと私を見つめるだけで何も答えない。あれ、こんな状況、前にもあったような。
 
「……それはちょっと、反則じゃね?」

 少し間をおいて、桔平くんが口を開く。
 
「あんま煽んなよ。帰るって言ってんじゃん」

 そして、ぶっきらぼうな言い方と裏腹に、優しく私を抱き寄せた。

「ほったらかしにできるわけねぇだろ。構いたくて仕方ないのは、オレの方なんだよ。本当は、このまま連れて帰りたいんだからさ」

 釣った魚には餌をやらない男かもしれない。そんなこと言っていたのは、誰だったっけ。桔平くんって、実はとっても愛情深い人なんじゃないのかな。