ホウセンカ

 父さんの心配は的中し、オレは子供の頃からどこへ行っても馴染めず苦悩した。
 それでも生きてこられたのは、父さんから貰った才能があるから。絵の技術や表現力が、人より秀でているとは思わない。好きなものを、ずっと好きでいられる。それがオレの才能だ。

「絶対に喜んでるよ、桔平くんのお父さん」
「そうだといいな」
「当たり前でしょ。こんなに可愛くて料理上手で献身的な彼女がいるんだから」

 鼻をすすりながら言う愛茉を、強く抱きしめる。
 この感情を表現する言葉を探し続けていたが、本能としか言えないと思った。出会った瞬間に、そのスイッチが入る。そして、お互いどうしようもないほど惹かれ合う。そこに理屈なんかない。

「父さんが好きなこの花に、そっくりだなって思ったんだよ」
「私が?ホウセンカに?」
「うん。ホウセンカの花言葉、知ってる?」
「心を開く……だっけ?」
「他にもあるよ。“短気”とか“触れないで”とか。人を惹きつけるくせに距離を置こうとするしさ。でも一度気を許したら、すぐ拗ねるし気性が激しいしすげぇワガママだしさ。そっくりだろ、愛茉に」

 綺麗な外見で周囲を魅了するのに、簡単には触れさせない。下手に触ると、思わぬ攻撃を食らう。改めて考えても、そっくり過ぎて笑いがこみ上げてくる。
 愛茉は少し不満げに口を尖らせながら、目元を拭った。

「あんまし否定できない」
「だろ?」
「私だって、本当はもっと優しくて素直な彼女になりたかったんだよ?でも桔平くんが、そうさせてくれなかったんでしょ。私を甘やかすから」

 そのままの愛茉が一番可愛いのだから仕方ない。振り回されるのを好むのは、やはり遺伝だろうな。
 何となく、父さんと母さんの若い頃の話が聞きたくなった。恐らく母さんは嬉々として喋り倒してくれるだろう。そして愛茉も目を輝かせて聞くはずだ。

 しばらく無言になって、2人でじっと絵を見つめた。
 
「……なんていうか、とにかく愛を感じる」
「分かる?オレの愛」
「うん」
「じゃあ、良い絵だ」
「うん。すごく……良い絵」

 愛茉が少し体重を預けてくる。良かった。オレの描きたかったものは、ちゃんと伝わっている。

 浅尾瑛士の絵と並べられても平気だ。伝えたい人に、伝えたいことが伝わればいい。こんな単純なことに気がつかなかったなんて、思わず自嘲したくなる。

 これが、今のオレの絵。誰に対しても、胸を張ってそう言えると思った。