ホウセンカ

 翔流からも、体調を気遣うLINEがたまにきていた。順調だと返事をすると「ま、ほどほどにね」と返ってくる。

 翔流がいなければ、オレはとっくに死んでいたかもしれないと思った。真の孤独は人を死に追いやる。自然界では無駄なものなど何ひとつとして存在しないから、必要とされない人間も生きていけない。
 翔流は性格も価値観もオレとはまるで違うし、普段から理屈ばかり言っている。七海ちゃんが文句を言うのも頷けるほど、情緒というものがない。それなのに翔流は、オレのために泣いてくれた。だから孤独にならずに済んだんだ。

 生きているのではなく、多くの人の中で生かされている。そう思うと、また涙がこみ上げてきた。

 そして、景色の主役が紅葉からイルミネーションへと変わった12月のある日。最後の色を入れて、オレは筆を置いた。

「出来た」

 思わず独り言を呟く。すると、父さんの優しい声が頭に響いた。

 いの一番に見てほしくて愛茉へ電話をすると、気温は1桁だというのに、ろくに着込まず部屋着のままアトリエへ駆け込んできた。頬は紅潮して、目には涙が溜まっている。その顔を見るだけで、胸の奥が熱くなった。

 まだ絵具が乾き切っていない絵を見下ろして、愛茉が息を吞む。そしてしばらく経ってから、震える声で言った。

「これ……私……?」

 鮮やかな紅い花を、優しい瞳で愛でる女性。白い紙を前にした時、オレの目に映ったのは、鎌倉での愛茉の姿だ。あれ以上に美しいものは、今のオレには思い浮かばなかった。

「オレが絵を描くことは、父さんとの会話だって思ったんだよ」

 何となくそうしたくなって、愛茉を後ろから抱きすくめる。髪は冷たいが、体は暖かい。愛茉はオレの腕に両手を添えて、小さく頷いた。
 
「どんな人と出会って、どんなものを見て、何を感じたのか。父さんに話したいことが、たくさんあってさ。それを伝える唯一の手段が、これだなって。それでオレの傍には愛茉がいるってことを、真っ先に伝えたかった」

 コレットのマスターが言うには、父さんは死の直前までオレのことを心配していたらしい。自分が唯一にして最大の理解者であることを、よく分かっていたのだろう。その人間がいなくなった後、オレが生きづらさを抱えてしまうかもしれないと気にしていたそうだ。