だけど、桔平くんはなかなか絵を描き始めなかった。というより、描き始められないと言う方が正しい。構図どころかモチーフのイメージすら湧かない。スケッチだけが溜まっていく。そんな状態。
とりあえず家には帰ってきてくれるけれど、ずっと浮かない表情をしている。
食欲がないみたいで食べる量が一気に減ったし、熟睡出来ないのか、夜中にベランダで煙草を吸いながら考えこむことが増えた。
私には、見守ることしか出来ないのかな。もどかしさを感じつつも、帰ってきた時には精一杯の笑顔で出迎えるように心がけた。
ネガティブに考えたらダメ。私の役目は、この家をリラックスできる空間にすること。きっと、ホッとしたいから帰ってきてくれてるんだもん。
「飯あんま食えなくてごめんな……すげぇウマいのに……」
夕ご飯の後片付けをしながら、桔平くんが申し訳なさそうに言った。
少しずつ追い込まれているのが分かる。でも、そんな簡単にいくわけないよ。だからこそチャレンジしているんだし。
私はただ信じるだけ。桔平くんが、自分なりの“普遍の美”を描き上げることを。
「ううん、無理しないでいいよ」
「せっかく一生懸命作ってくれてるのに、食えねぇのが申し訳なくてさ。はぁ……マジで軟弱だわ……」
桔平くんが繊細なのは初めから分かっていたこと。どれだけ落ち込んでも、絶対にお腹が空いてしまう私とは全然違う。
だけど桔平くんのそういうところも大好き。それに、強がらずに弱さをそのまま見せてくれるのが嬉しかった。
「スープとかスムージーなら入りそう?」
「あぁ、それなら入ると思う。でも面倒じゃねぇ?」
「全然大丈夫だよ!私も飲みたいし」
「んじゃ……お願いします」
というわけで、次の日から野菜と果物をたくさん買って、特製スープやスムージーを作るようになった。それなら喉を通るみたいで、ホッとひと安心。
そして朝は、桔平くんが大好きなミックスジュースです。コレットのマスターがレシピを教えてくれたんだよね。ミカンの風味が強いやつ。しかも、仕入れた果物をおすそ分けしてくれたの。
「あ、コレットと同じ味じゃん!」
飲んだ瞬間、子供みたいな顔で喜んでくれた。
桔平くんが嬉しいと、私も嬉しくなる。最近は特に、そのことを強く感じるようになった。自分が満たされるための行動だとしても、相手が心から喜んでくれるなら、利他も利己もないのかもしれない。
桔平くんと私の境目がなくなって、2人で同じ感情を共有する。そんな感じになれているのなら、すごく幸せだと思った。
それでも時間は無情に過ぎる。いつまで経っても何も思いつかないまま、桔平くんはどんどん疲弊していった。
とりあえず家には帰ってきてくれるけれど、ずっと浮かない表情をしている。
食欲がないみたいで食べる量が一気に減ったし、熟睡出来ないのか、夜中にベランダで煙草を吸いながら考えこむことが増えた。
私には、見守ることしか出来ないのかな。もどかしさを感じつつも、帰ってきた時には精一杯の笑顔で出迎えるように心がけた。
ネガティブに考えたらダメ。私の役目は、この家をリラックスできる空間にすること。きっと、ホッとしたいから帰ってきてくれてるんだもん。
「飯あんま食えなくてごめんな……すげぇウマいのに……」
夕ご飯の後片付けをしながら、桔平くんが申し訳なさそうに言った。
少しずつ追い込まれているのが分かる。でも、そんな簡単にいくわけないよ。だからこそチャレンジしているんだし。
私はただ信じるだけ。桔平くんが、自分なりの“普遍の美”を描き上げることを。
「ううん、無理しないでいいよ」
「せっかく一生懸命作ってくれてるのに、食えねぇのが申し訳なくてさ。はぁ……マジで軟弱だわ……」
桔平くんが繊細なのは初めから分かっていたこと。どれだけ落ち込んでも、絶対にお腹が空いてしまう私とは全然違う。
だけど桔平くんのそういうところも大好き。それに、強がらずに弱さをそのまま見せてくれるのが嬉しかった。
「スープとかスムージーなら入りそう?」
「あぁ、それなら入ると思う。でも面倒じゃねぇ?」
「全然大丈夫だよ!私も飲みたいし」
「んじゃ……お願いします」
というわけで、次の日から野菜と果物をたくさん買って、特製スープやスムージーを作るようになった。それなら喉を通るみたいで、ホッとひと安心。
そして朝は、桔平くんが大好きなミックスジュースです。コレットのマスターがレシピを教えてくれたんだよね。ミカンの風味が強いやつ。しかも、仕入れた果物をおすそ分けしてくれたの。
「あ、コレットと同じ味じゃん!」
飲んだ瞬間、子供みたいな顔で喜んでくれた。
桔平くんが嬉しいと、私も嬉しくなる。最近は特に、そのことを強く感じるようになった。自分が満たされるための行動だとしても、相手が心から喜んでくれるなら、利他も利己もないのかもしれない。
桔平くんと私の境目がなくなって、2人で同じ感情を共有する。そんな感じになれているのなら、すごく幸せだと思った。
それでも時間は無情に過ぎる。いつまで経っても何も思いつかないまま、桔平くんはどんどん疲弊していった。



