「怒らないで。桔平が好きだから言ってるのよ」
スミレはいつも、オレのことが好きだと言ってくれる。その言葉が、まるでオレを縛る呪いのように感じてきたのは、この頃からだ。
他の人間を好きになってもオレを好きな気持ちは変わらない。繰り返しそう言うが、オレがスミレの知らない他の女と付き合っても、本当に平気なのだろうか。
そもそも、自分だけを見てほしいから付き合うんじゃないのか。相手を一途に思って大切にしたいから、恋人になるんじゃないのか。そう思うオレが間違っていて、子供っぽい独占欲を抑えきれないのが悪いのか。
好きな女に好きと言われて、何故こんなに苦しくなるのだろう。怒りとも悲しみともとれる複雑な感情がこみ上げてきて、腰に巻きついているスミレの腕を乱暴に掴み、体ごとベッドへ押し付けた。
「ちょっと、私これから予定があるって言ったでしょ」
「だからすぐに終わらせてやるよ」
スミレの予定とは、別の男とのデートだ。もう夜10時を回っている。こんな時間から会ってすることなんて、ひとつだけだろう。
冷たい感情に支配されて、ほとんど前戯もなしにスミレを抱いた。強引にされても恍惚とした表情を浮かべるスミレが疎ましかったし、この顔を他の男にも見せるのだと思うと、頭がおかしくなりそうだった。
オレのものだと言わんばかりに、スミレの首や胸に自分の跡を残す。幼稚な行動だと分かっていたが、どうにも抑えきれない。ただ、どれだけスミレの中に感情を吐き出しても、オレの心が軽くなることはなかった。
「公募の締切、忘れないようにね」
帰り際のスミレの言葉がやたら無機質に響いて、また眠れない夜を過ごした。
こんな事が続いてもスミレと別れられなかったのは、オレが弱かったからにすぎない。
思い込みや忖度なくオレの絵を見てくれるのはスミレだけだったし、それが心の支えになっていたのも事実だ。たとえ自分だけのものにできなくても、傍にいてほしかった。
それに負の感情を振り払おうとすることで、絵に対する集中力は増していた。残酷な話だが、ネガティブなものは案外創作の原動力になるらしい。そして絵と向き合っている時は心が落ち着いていて、汚れきった自分と目を合わさずに済んだ。
絵があるから生きていける。そう信じて疑わなかったが、その気持ちが足元から崩れたのは、年が明けた2月上旬。大学2年生になる直前、相談があると言ってスミレが自宅を訪ねてきたことがきっかけだった。
「妊娠したかもしれないの」
スミレはずっと体調が悪そうだった。だから何となく予感はしていたものの、改めて告げられると、胸に黒いものが渦巻いてくる。それでもなんとか平静を装った。
スミレはいつも、オレのことが好きだと言ってくれる。その言葉が、まるでオレを縛る呪いのように感じてきたのは、この頃からだ。
他の人間を好きになってもオレを好きな気持ちは変わらない。繰り返しそう言うが、オレがスミレの知らない他の女と付き合っても、本当に平気なのだろうか。
そもそも、自分だけを見てほしいから付き合うんじゃないのか。相手を一途に思って大切にしたいから、恋人になるんじゃないのか。そう思うオレが間違っていて、子供っぽい独占欲を抑えきれないのが悪いのか。
好きな女に好きと言われて、何故こんなに苦しくなるのだろう。怒りとも悲しみともとれる複雑な感情がこみ上げてきて、腰に巻きついているスミレの腕を乱暴に掴み、体ごとベッドへ押し付けた。
「ちょっと、私これから予定があるって言ったでしょ」
「だからすぐに終わらせてやるよ」
スミレの予定とは、別の男とのデートだ。もう夜10時を回っている。こんな時間から会ってすることなんて、ひとつだけだろう。
冷たい感情に支配されて、ほとんど前戯もなしにスミレを抱いた。強引にされても恍惚とした表情を浮かべるスミレが疎ましかったし、この顔を他の男にも見せるのだと思うと、頭がおかしくなりそうだった。
オレのものだと言わんばかりに、スミレの首や胸に自分の跡を残す。幼稚な行動だと分かっていたが、どうにも抑えきれない。ただ、どれだけスミレの中に感情を吐き出しても、オレの心が軽くなることはなかった。
「公募の締切、忘れないようにね」
帰り際のスミレの言葉がやたら無機質に響いて、また眠れない夜を過ごした。
こんな事が続いてもスミレと別れられなかったのは、オレが弱かったからにすぎない。
思い込みや忖度なくオレの絵を見てくれるのはスミレだけだったし、それが心の支えになっていたのも事実だ。たとえ自分だけのものにできなくても、傍にいてほしかった。
それに負の感情を振り払おうとすることで、絵に対する集中力は増していた。残酷な話だが、ネガティブなものは案外創作の原動力になるらしい。そして絵と向き合っている時は心が落ち着いていて、汚れきった自分と目を合わさずに済んだ。
絵があるから生きていける。そう信じて疑わなかったが、その気持ちが足元から崩れたのは、年が明けた2月上旬。大学2年生になる直前、相談があると言ってスミレが自宅を訪ねてきたことがきっかけだった。
「妊娠したかもしれないの」
スミレはずっと体調が悪そうだった。だから何となく予感はしていたものの、改めて告げられると、胸に黒いものが渦巻いてくる。それでもなんとか平静を装った。



