桔平くんの元カノを見た。

 と言っても、実物を見たわけではない。クローゼットの奥で見つけた昔のスケッチブックに、女性を描いた絵が何枚もあって、直感的に思ったの。これは元カノだって。

 とても綺麗な人だった。日本的な美人というか、スッキリした目元に意志の強さが見え隠れしていて、私とは全然違うタイプの女性。

 見たくて見たわけじゃない。クローゼットを片付けていた時、たまたま荷物の雪崩が起きてしまって。崩れたスケッチブックの山を元に戻そうとしたら、目に入ってしまったの。

 桔平くんはいつも、私がキッチンに立つ姿とか寝顔とかを描いている。だから昔の彼女にも同じことをしていたって、何の不思議もない。過去に恋人がいたことも分かっていたけれど、改めてその存在を目の当たりにすると、胸が詰まる。

 桔平くんが家にいない時だったから、つい他のスケッチブックもパラパラめくってしまった。見たくない。それなのに見てしまう。

 年上かな。とても大人っぽいし。彼女の絵は、何枚も何枚もあった。その数が、2人の年月を物語っているようで。ページをめくる度に胸がズキズキするのに、手が止められない。

 どんな瞳で彼女を見つめていたの?どんな表情で描いていたの?この絵を描いている桔平くんを想像してしまって、思わず涙がこみ上げる。

 何冊目かのスケッチブックを見た後、ようやく我に返った私は、胸の痛みとともにスケッチブックを奥へとしまい込んだ。

 私と出会う前の桔平くんが、私じゃない他の誰かを愛して大切に想っていた。そんなの、仕方がないこと。

 分かってる。分かっているのに。桔平くんの過去まで自分のものにすることなんて、絶対にできない。頭では嫌になるほど分かっている。それなのに、どうして頭と心は別なんだろう。

「なんかあった?」

 その夜。桔平くんはいつものように、優しく優しく抱いてくれた。でも私は普段以上に甘えてしまったから、少し心配そうな顔をしている。

「別にぃ……」
「もっと上手く嘘つけよ」
「だって……子供みたいって笑われそうなんだもん」
「笑わねぇよ。言ってみ」
「……ネットでうっかり、ホラーゲームの怖い画像見ちゃったの!目を閉じたらそれが浮かんできちゃうの!だから桔平くんで上書き!」
「なんだよ、そんなことか」

 笑わないって言ったのに笑うし。だけど、頬や額にいっぱいキスをして宥めてくれた。

 もしかすると、私の嘘はお見通しなのかもしれない。それでも本当のことなんか言えるわけないし。言ったところで、どうしようもない。