「やっぱりねー!さすが浅尾っちだわ!自分の体も美を追求している感じ!」
「浅尾きゅんって夏でも半袖着ないしぃー着てても上着羽織っちゃって露出少ないんだよねぇー。ようやく噂の真偽が判明しちゃったわぁー」
「そういや言われてみれば、浅尾っちの半袖姿見たことないかも。七分はあるけど」

 桔平くんは、外出する時にほとんど肌を露出しない。夏はサングラスが欠かせないみたいだし、目と同じように肌も紫外線に弱いのかと思いきや、単純に露出する服装が好きじゃないからという理由だった。

「家では半袖のTシャツ着てるけど、外には着ていきたくないみたい。好みの問題なんだって」
「出た。浅尾っちの謎のこだわり。いい体してるんなら、ちゃんと見せろって感じ」
「んふふぅ。謎のこだわりは藝大生あるあるですねぇー」

 言いながら、ヨネちゃんがお肉を次々と網の上へ並べていく。ああ、美味しそう……。朝はスムージーだけにしたから、もうお腹ペコペコ。おっと、よだれ出てきちゃった。

「そういえばぁ、るーくんは元気ぃー?」

 ヨネちゃんは、翔流くんのことを“るーくん”と呼んでいる。翔流くんは桔平くんの絵の展示に毎回欠かさず行っているらしくて、ヨネちゃんたちとも顔見知り。そして春のグループ展は七海と一緒に来ていたから、2人が付き合っていることもみんな知っている。
 
「あー、元気なんじゃない?」
「あらぁーなんだか距離を感じるぞぉー?喧嘩でもしてるぅ?」
「翔流くんと、会ってないの?」

 七海は私とヨネちゃんの質問に答えず、口を尖らせながら自分が網の上に置いたタン塩を見つめている。
 
「アイツの恋人は、私じゃなくて法律よ」

 少し間をおいてから吐き捨てるように七海が言って、ビールを喉へ流し込んだ。ちなみに七海の誕生日は6月だから、もうお酒はOKです。
 
「るーくんってロースクールに行くんだっけぇ。お勉強忙しいのかぁー」
「LINEだって既読スルーよ。一昨日送ったのに、返事なし」
「えっ!ひどいっ!」

 桔平くんに既読スルーなんてされたことないし。私には絶対そんなことしないもん。もしかして“釣った魚に餌を与えない男”は翔流くんだったの?
 だとしたら許さんぞぉ。私の七海を傷つけるようなら、成敗しなきゃ。

「分かってるよ?勉強しないといけないって。でもさぁ、LINE返す時間ぐらいあるでしょ?5分もかからないじゃん」
「そうだねぇーひとことでもいいから返事欲しいよねぇー気持ちわかるぞぉー」

 うんうんと頷いて、ヨネちゃんが七海の小皿へタン塩を置く。七海が放置するから、危うく焦げるところだった。さすがヨネちゃん。