愛茉から頼られ、必要とされている。オレの中で、その事実は思ったより大きかった。
どうしたら自分の絵を描けるようになるのかは、今はまだ分からない。それでも愛茉が傍にいてくれるなら、いつか必ず描けると思っている。一緒に過ごすうちに変わってきたのは愛茉だけではないからだ。
「桔平くーん」
キッチンからオレを呼ぶ声が聞こえる。すぐに作業を止めて、顔を出した。
「なに?」
「お米洗って、うるかしといてー」
北海道の方言も少し分かるようになってきた。“うるかす”は水につけておく、ということ。愛茉が言うと、どうしてこんなに可愛く聞こえるのか。
「2合でいい?」
「うん、ありがとう!お願いしまーす」
何をしていても愛茉を優先させるのは、今も変わっていない。というよりもう条件反射になっている。ほったらかしにしないと、最初に約束したしな。
米を研ぐのは、大体オレの役目。オレは包丁が苦手なので、刃物を使わない作業しかできなかったからだ。
ちなみに包丁が苦手なのは、子供の頃に楓が自分の手を切って流血沙汰を起こしたから。傷は深くなかったものの、どうもその光景がトラウマになっているらしい。
よりにもよって、母親が横で魚を捌いている時だ。楓が死ぬ死ぬと泣き喚いて暴れたせいで、キッチンは魚の内臓や血が飛び散った凄惨な事件現場になっていた。あれを見てトラウマにならない方がおかしい。そして楓は、しっかりと料理嫌いになっている。
オレも包丁を握るとあの光景が甦るから、ひとり暮らしを始めても自炊をしなかった。
ただ最近では、キッチンバサミを駆使する技を覚えた。包丁が使えなくても、これさえあれば大抵のことはできる。
愛茉に任せっきりにするのも申し訳ないので、少しずつ自分の役割を増やしている最中だった。
「桔平くんがお米研ぐと、いつもより美味しく感じるんだよね。なんでだろう」
「そりゃ、この黄金の指のおかげだろ」
「……なんか、言い方がエッチ」
「なに想像してんだよ、エッチ」
愛茉がアヒルのように口を尖らせて、睨みつけてくる。気楽にキスができない身長差が恨めしい。まあ、そのおかげで自制心が働くわけだが。
ちなみに今日の白米の味がいつもより良かったのは、単純に銘柄がいいからだろう。愛茉特製の夏野菜ゴロゴロチキンカレーも、素材の旨みが凝縮されていて最高だった。
将来は北海道に移住しようかと本気で考えてしまう。愛茉の人生計画書に、移住のプランはあっただろうか。今度話してみようと思った。
どうしたら自分の絵を描けるようになるのかは、今はまだ分からない。それでも愛茉が傍にいてくれるなら、いつか必ず描けると思っている。一緒に過ごすうちに変わってきたのは愛茉だけではないからだ。
「桔平くーん」
キッチンからオレを呼ぶ声が聞こえる。すぐに作業を止めて、顔を出した。
「なに?」
「お米洗って、うるかしといてー」
北海道の方言も少し分かるようになってきた。“うるかす”は水につけておく、ということ。愛茉が言うと、どうしてこんなに可愛く聞こえるのか。
「2合でいい?」
「うん、ありがとう!お願いしまーす」
何をしていても愛茉を優先させるのは、今も変わっていない。というよりもう条件反射になっている。ほったらかしにしないと、最初に約束したしな。
米を研ぐのは、大体オレの役目。オレは包丁が苦手なので、刃物を使わない作業しかできなかったからだ。
ちなみに包丁が苦手なのは、子供の頃に楓が自分の手を切って流血沙汰を起こしたから。傷は深くなかったものの、どうもその光景がトラウマになっているらしい。
よりにもよって、母親が横で魚を捌いている時だ。楓が死ぬ死ぬと泣き喚いて暴れたせいで、キッチンは魚の内臓や血が飛び散った凄惨な事件現場になっていた。あれを見てトラウマにならない方がおかしい。そして楓は、しっかりと料理嫌いになっている。
オレも包丁を握るとあの光景が甦るから、ひとり暮らしを始めても自炊をしなかった。
ただ最近では、キッチンバサミを駆使する技を覚えた。包丁が使えなくても、これさえあれば大抵のことはできる。
愛茉に任せっきりにするのも申し訳ないので、少しずつ自分の役割を増やしている最中だった。
「桔平くんがお米研ぐと、いつもより美味しく感じるんだよね。なんでだろう」
「そりゃ、この黄金の指のおかげだろ」
「……なんか、言い方がエッチ」
「なに想像してんだよ、エッチ」
愛茉がアヒルのように口を尖らせて、睨みつけてくる。気楽にキスができない身長差が恨めしい。まあ、そのおかげで自制心が働くわけだが。
ちなみに今日の白米の味がいつもより良かったのは、単純に銘柄がいいからだろう。愛茉特製の夏野菜ゴロゴロチキンカレーも、素材の旨みが凝縮されていて最高だった。
将来は北海道に移住しようかと本気で考えてしまう。愛茉の人生計画書に、移住のプランはあっただろうか。今度話してみようと思った。



