「恭一さんと結婚して、可愛い子供が一気に2人もできちゃって。私はとっても幸せ者だなぁって、最近つくづく思うのよね」
「可愛い子供って、オレも?」
「当然でしょ。愛茉ちゃんも桔平君も、私の可愛い子供。恭一さんだって、あなたのこと息子みたいに可愛がってるじゃない」
「それじゃ、オレは相当な贅沢者だな。母親2人に、父親は3人もいるし」
「ほーんと大家族ねぇ、桔平君は」
辛い過去を明るさで包み込んで、智美さんはいつも朗らかに笑っている。人知れず涙を流したことだって何度もあるはずだ。それでも暗い影が一切見えないのは、この生来の明るさがあるからだろう。
智美さんには、何もかもを包み込んでくれそうな大きな安心感を感じる。こういう家族が増えるのは、本当に幸せなことだと思った。
そして盆明けの8月17日。お父さんと智美さんが、日本を発ってオーストラリアへと向かった。これから1週間、小樽の家で愛茉と2人きりで過ごす。
やはり愛茉はこちらの空気の方が合うらしい。どことなく、いつもより生き生きとしているように見える。そういう姿が見られただけでも、来てよかったと思った。
愛茉は今でも真っ白だ。出会った時から変わることなく、曇りが一切ない。
オレが穢してしまうんじゃないかと怖く感じたこともあったが、それは杞憂だった。愛茉はずっと、愛茉のまま。だからいつでも、オレの心の蕪雑な部分に安らぎを与えてくれていた。
「はぁ、わやだわぁ。なまら緊張する」
運転席でハンドルを握り締めて、愛茉が呟いた。
オレの前で時折飛び出す方言がたまらなく可愛いわけだが、今はそんなことを思っている場合じゃない。命の危機だ。
「……だから、オレが運転するって」
「するの!私が!」
留守の間は自分の車を使ってもいいと智美さんが言ってくれたが、免許取得からほとんど運転していないペーパードライバーがハンドルを握ることを、果たして想定していたのだろうか。
硬い表情のまま、愛茉が車のキーを回す。一緒に死のうとは言ったものの、さすがにまだ早すぎるな。
「22年の人生か……」
「だっ、大丈夫だから!私、教習所で褒められたもん!慎重で丁寧な運転だって!」
「2年前のことだろ」
「だから、とりあえず家の周りだけって言ってるじゃない!さっきからうるさいなぁ!ちょっと黙ってて!」
かなり殺気立っているな。毛を逆立てて威嚇している猫のようだ。こういうところは、本当に可愛い。出会った頃には絶対に見せなかった表情だ。
なにかブツブツ呟いた後、愛茉が意を決して前を向いた。
「可愛い子供って、オレも?」
「当然でしょ。愛茉ちゃんも桔平君も、私の可愛い子供。恭一さんだって、あなたのこと息子みたいに可愛がってるじゃない」
「それじゃ、オレは相当な贅沢者だな。母親2人に、父親は3人もいるし」
「ほーんと大家族ねぇ、桔平君は」
辛い過去を明るさで包み込んで、智美さんはいつも朗らかに笑っている。人知れず涙を流したことだって何度もあるはずだ。それでも暗い影が一切見えないのは、この生来の明るさがあるからだろう。
智美さんには、何もかもを包み込んでくれそうな大きな安心感を感じる。こういう家族が増えるのは、本当に幸せなことだと思った。
そして盆明けの8月17日。お父さんと智美さんが、日本を発ってオーストラリアへと向かった。これから1週間、小樽の家で愛茉と2人きりで過ごす。
やはり愛茉はこちらの空気の方が合うらしい。どことなく、いつもより生き生きとしているように見える。そういう姿が見られただけでも、来てよかったと思った。
愛茉は今でも真っ白だ。出会った時から変わることなく、曇りが一切ない。
オレが穢してしまうんじゃないかと怖く感じたこともあったが、それは杞憂だった。愛茉はずっと、愛茉のまま。だからいつでも、オレの心の蕪雑な部分に安らぎを与えてくれていた。
「はぁ、わやだわぁ。なまら緊張する」
運転席でハンドルを握り締めて、愛茉が呟いた。
オレの前で時折飛び出す方言がたまらなく可愛いわけだが、今はそんなことを思っている場合じゃない。命の危機だ。
「……だから、オレが運転するって」
「するの!私が!」
留守の間は自分の車を使ってもいいと智美さんが言ってくれたが、免許取得からほとんど運転していないペーパードライバーがハンドルを握ることを、果たして想定していたのだろうか。
硬い表情のまま、愛茉が車のキーを回す。一緒に死のうとは言ったものの、さすがにまだ早すぎるな。
「22年の人生か……」
「だっ、大丈夫だから!私、教習所で褒められたもん!慎重で丁寧な運転だって!」
「2年前のことだろ」
「だから、とりあえず家の周りだけって言ってるじゃない!さっきからうるさいなぁ!ちょっと黙ってて!」
かなり殺気立っているな。毛を逆立てて威嚇している猫のようだ。こういうところは、本当に可愛い。出会った頃には絶対に見せなかった表情だ。
なにかブツブツ呟いた後、愛茉が意を決して前を向いた。