「あ、ごめん。起こした?」
「あ!いっ……」
「う?」
「え、じゃなくて!今、何時!?」

 慌てて半身を起こしてスマホを探す。待って待って、私どのくらい寝てたの?

「0時半過ぎ」
「うわーん過ぎちゃった!起こしてよぉ!」
「なんでだよ……うおっ」

 タックルするように、思いきり抱きつく。勢いあまって桔平くんが仰向けに倒れて、私が押さえ込む形になっちゃった。

「誕生日!おめでとう!」
「お、おお。ありがとう」
「うう、0時ピッタリに言う計画だったのに……」
「あー、そういうことか。いつ言われようが、嬉しいのに変わりねぇって」

 あたたかい手が、背中と頭を撫でてくれる。初めて桔平くんに触れられた時から何も変わらない、最上級の心地良さ。

 ウズウズしてしまって、私の方からキスをした。この唇の感触も大好きなの。

「……夜ご飯、頑張って作るね。お母様みたいなコース料理じゃないし、味も劣っちゃうけど」
「愛茉の飯が一番に決まってんじゃん。それがないと、もう生きていけねぇもん」

 お世辞でも大袈裟でも、嬉しいものは嬉しい。やっぱり優しいな。
 しばらくそのまま抱き合って、たくさんキスをした。

「ほら、疲れてるだろ。明日学校なんだし、ちゃんと寝とけよ」
「桔平くんは?」
「オレも寝る。眠い」

 付き合いたての頃は、私が寝た後も真夜中まで起きていたのにね。桔平くんから離れて元の位置に戻りながら、ふと懐かしく感じて、ひとりでニヤけてしまった。

「電気消すぞー」
「はぁい」
 
 部屋の電気が全部消えても、カーテンがない大きな窓からは満月の灯りがぼんやりと差し込んでくる。それを桔平くんの肩越しに見るのが好きだった。

 いつものように向かい合って、お互いの手を握る。一日を幸せな気分で終えるための、私たちの日課。

「愛茉」

 握った手に力を込めながら、桔平くんが私の名前を呼ぶ。
 
「傍にいてくれて、ありがとう」

 胸がギュっとなった。嬉しくて幸せで、桔平くんがとっても愛おしくて。全身がゾワゾワしてくる。この感覚は、表現するのが難しい。桔平くんの愛情が体中のすみずみまで行き渡って、細胞のひとつひとつが喜んでいるような感じ。

「私はずっと、桔平くんの傍にいるよ」
「あと65年?」
「うん。あー、やっぱり違うかな。死んじゃった後もずーっと、傍にいたいもん」
「そうだな。一緒に生きて一緒に死んで、来世もその先も、宇宙が消えて無くなっても一緒にいようぜ」

 こんなセリフをさらりと言えるのは、桔平くんぐらいだよ。すっごくキザなのに様になっちゃう。

 もう一度キスをして、微笑み合った。

「おやすみ」
「おやすみなさい、桔平くん」

 “おはよう”で始まって“おやすみ”で終わる。こんな毎日が、これからずっとずっと続いていくといいな。

 生まれてきてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。大好きな人の誕生日は、私にとっても嬉しい日。そんな幸せを教えてくれて、本当にありがとう。

 おじいちゃんとおばあちゃんになっても、手を繋いで一緒に寝ようね。

 そう念じてしっかり手を握ったまま、2人で夢の世界へと落ちていった。