「何で勝手に決めつけんのよ。私がいつ、かけるんのこと都合の良い友達だって言った?」

 口調はキツいけれど、七海の表情はさっきまでのように険しくはない。いけ、言っちゃえ。

「だってななみん、セフレいるじゃん。俺もそういう枠なのかなって」
「いたよ!いたけど、お別れしたし!かけるんとエッチした後、ソッコーで!」
「え、マジ?」

 私は、口元がニヤけてしまうのを必死で抑えていた。やばい、嬉しい。友達のことで、こんなに嬉しい気持ちになるなんて。最高のバレンタインデーじゃない?
 
「……ちゃんと責任取ってよね。私を本気にさせた責任」

 そう言った七海は、やっぱり恋する女の子の顔をしていた。

 桔平くんが私の肩をつついて、店を出ようと目で訴える。そして奢られに来たとか言っておきながら、きちんとテーブルの上にお金を置いていた。

 七海と翔流くんは、もう2人の世界に入っちゃったみたい。私たちがそっと出て行ったのには、まったく気がつかなかった。

「はぁ~なんか無駄に疲れたわ」

 帰宅すると、桔平くんが不機嫌な表情でこぼした。

「ごめんね、巻き込んじゃって」
「まったくだ。ガキじゃねぇんだから、自分たちだけでやってろっつーの」

 悪態をついているけれど、本当は2人のこと心配だったんでしょ。私には分かるもんね。そうじゃなきゃ、あそこで翔流くんにビシッと言ったりしないはずだし。やっぱり、桔平くんは優しい。

「さっき、七海からLINEきたよ。ちゃんと付き合おうって言われたみたい。桔平くんにも、ありがとーだって」
「あっそー」

 脱いだコートをポールラックに雑に掛けながら、全然興味なさそうに返事をする。そして盛大なため息とともに、ベッドへ仰向けに倒れた。

「はい。ハッピーバレンタイーン!」

 私はキッチンカウンターに置いていた紙袋を取って、寝転がる桔平くんの横に置いた。付き合わせてごめんねの意味も込めて。

「そうそう、これだよ。これ食わねぇと今日が終わらん」

 ガバっと起き上がって、一気にご機嫌な表情になる。こういうところ、子供みたいで可愛いのよね。

「すげぇ。デコレーション、綺麗じゃん。いただきます」

 私は隣に座って、桔平くんが食べる姿をドキドキしながら見つめた。
 
「……味、どう?」
「めちゃくちゃウマい」

 ああ、良かった。お菓子の味だけじゃなくて、完全に桔平くんの機嫌が直ったことにも安心する。

「愛茉も食う?」
「ううん、私は」

 言い終わる前に、口の中にチョコレートの味が広がった。

「どう?」

 唇を離してそう訊いてくる桔平くんの顔は、さっきとは一変してとても色っぽくて、一気に心臓が早鐘を打ち始める。

「……甘い」
「んじゃ、一緒に味わおうぜ。甘い物は別腹なんだろ?」

 バレンタインは、恋人たちの日。七海と翔流くんも、幸せな時間を過ごしているのかな……なんて、そんなことを考える余裕は、すぐになくなった。

 自分の指をペロリと舐めた後、桔平くんが私のワンピースのファスナーを下ろしながら、体を優しく押し倒す。

 大好きな人とチョコレートの香りに包まれながら、とっても幸せなバレンタインの夜が過ぎていった。