七海は勉強が苦手だけど、頭の回転は速い。そして弟と妹がいるからなのか、面倒見が良くて姉御肌。甘えられるのが好きなタイプなんだけど、そのせいで今までダメな男とばかり付き合ってきたらしい。

 ……めちゃくちゃお似合いなのでは?

「お互い好きそうに見えるんだけどなぁ……」
「また始まった」
「だって上手くいってほしいんだもん」
「だから縁があるかどうかだろ。そんなもん、外野がヤキモキすることじゃねぇよ」

 ……正論ですけど。正論なんですけど。
 でも、友達のことなんだからヤキモキするでしょう?ホント桔平くんって、そういう乙女心がまったく分からないんだから。やっぱり他人に興味が持てない人なんだなぁ。

「で、オレにチョコ作ってくれるって?」

 不機嫌になる予兆を敏感に察知したのか、桔平くんが私の頬を撫でながら笑顔で言った。

 私の機嫌を取ることに関して、桔平くんの右に出る人はいないと思う。私が桔平くんに対してチョロいだけかもしれないけれど。
 
「桔平くんは、甘いものそんなに好きじゃないでしょ?だからチョコ作ってもいらないかなぁって思って」
「愛茉が作ったものなら欲しいです。ぜひ、ください」

 私の額にキスをして桔平くんが言う。
 相変わらず私にベタ惚れで、付き合う前にあれだけ不安を感じていたのが嘘みたい。

 桔平くんはいつでも私だけを見て、何よりも優先させてくれる。たくさん甘やかしてくれて、とっても大切にしてくれて。まるでお姫様のような扱い。

 だからといって、私もそれを当たり前に享受しているわけじゃない。長年染みついた思考や性格は簡単には変えられないけれど、それを丸ごと包んでくれることに、いつも感謝している。こんな人、他にいるわけないんだもん。

「……仕方ないなぁ。桔平くんのために、美味しいチョコを作ってあげよう」
「光栄です。ってことで、もっかい、いい?」

 返事をする前に、唇を塞がれた。
 桔平くんに求められるのは、すごく嬉しい。体だけじゃなくて心もひとつになれる気がするし、何よりも私自身を必要としてくれているのが、すごく伝わってくるから。精一杯それに応えたい。

 私は今でも定期的に、桔平くんの気持ちを試すようなことを言ってしまう。そういうところは全然変わらないけれど、飽きることも呆れることもなく、桔平くんはいつも最大限の愛情表現をしてくれる。

 だから思うんだよ。七海にも、私にとっての桔平くんみたいな人が現れてくれたら嬉しいなって。だって七海は、私にとって初めての友達だから。それに七海がいたから、桔平くんと出会えた。

 七海にとっての“運命の人”が、翔流くんだったらいいのにな。都合良すぎだって、桔平くんには鼻で笑われそうだけども。

 でもただの友達と思ってる人に、手作りチョコを渡したいなんて思わないよね?