憧れでもあり、超えられない壁でもあり、大好きな父親。“浅尾瑛士”という人に対する桔平くんの感情はとても複雑で、とても奥が深い。だからきっと、誰にも触れられないところにあるんだろうな。

「父親に似てるってことは、オレも早死にするかもしんねぇな」
「そんなのヤダ。私は桔平くんと長生きしたいのに」

 桔平くんが死んじゃったら、私は絶対に生きていけない。先に自分が死ぬのも嫌だし、残されるのも嫌。

「長生きか。愛茉と一緒なら、それもいいな。やりたいことやって、飽きたら一緒に死ぬか」
「いいねぇ、若いって。俺なんかはもう、死神さんとマブダチだよ。あとは順番待ちだな」
「え、それもヤダ。マスターも長生きして」

 私が言うと、マスターはまた目尻に深いシワをつくった。

「本当に可愛いねぇ、愛茉ちゃんは。桔平にはもったいないな。もっと、まともな男探しなよ」
「いやぁ、他の男が愛茉の相手すんのは無理だろ。もって2ヶ月が限界だと思うわ」

 マスターの冗談を、桔平くんが鼻で笑う。ひどい……とは言えない。だって自分でもそう思うから。

 ワガママだし面倒だし重たいし嫉妬深いし、独占欲も束縛も強い。どこで何をしているのか常に把握しておきたいって思っちゃうし。

 桔平くんは交友関係が限定的で、いつも自分からどこで誰と会うとか言ってくれるからいいけれど。多分それは、私の性格を分かっているから先回りしているんだと思う。疑うわけじゃないの。ただ、桔平くんのことを全部知っておきたいだけ。

 自分のこういう性格は、自分が一番よく分かっている。だから変わりたかったんだもん。こんなの、嫌われる要素しかないじゃない。

 それでも丸ごと受け入れて可愛いって言ってくれるのは、きっと桔平くんだけ。確かに、他の人じゃ2ヶ月が限界だろうな。どれだけ私の見た目が可愛くても、毎日見ていたら魔法が解ける。一緒にいて疲れる女だと顔の良さもかすんじゃうでしょ。

「まぁ、仲がよろしいことで何よりだよ。お前、一時期に比べてかなり顔色いいし、表情が柔らかくなったもんな」
「それ翔流と楓にも言われたけどさ。オレ、そんなに顔色悪かったわけ?」
「悪いなんてもんじゃないね。特に去年は、いつも青白くて死にそうなツラしてただろう」

 それって、食生活がひどくて生活リズム崩れていたからなのかな。何となく、それだけじゃないような気がする。

 勘だけど、女性の影が見え隠れしているというか。だって桔平くん、女は懲り懲りって前に言ってたんだもん。彼女じゃない人と遊んでいたっていう話も、それに関係しているんじゃないかな。