「いやぁ、いろいろすごかったわ。私アートって分かんないけど、何となく頭良くなった気がする」
「ななみん、そのコメントが既に頭悪そう」

 展示スペースを出て満足げな表情を見せる七海に、翔流くんが辛辣なツッコミをしている。本当に仲良しだよね。私は男女の友情ってあまり信じられないけれど、七海ならあるんだろうな。性格がサッパリしているから。

「かけるん、もうバイト行くの?」
「んー、まだ1時間半くらいある」
「じゃあ、時間まで私と回ろうよ。せっかくだから、愛茉と浅尾っち2人きりにしてあげなきゃ」
「ああ、そうね。んじゃ桔平、俺は明日も来るからさ」

 七海が翔流くんの腕をとる。……やっぱりこの2人、お似合いだよ。しつこくそう思っちゃう。

「愛茉、帰る時にLINEしてね。浅尾っちは片付けあるんでしょ?」
「ああ。オレは遅くなるから、一緒に帰ってやって」
 
 2人で大学祭を回れるなんて、すごく嬉しい。七海と翔流くんに感謝しなくちゃ。

 桔平くんがいつも過ごしている学校で、手をつないで歩く。こういうの、ちょっと憧れだったんだ。

 自分には遠い世界のことだと思っていた、恋愛漫画のときめき。それを全部くれるのは桔平くんだけ。何もかもはじめてで、何もかも唯一。そうであってほしいな。

「あ、浅尾君だ。ホットドッグ食べる?」

 歩いていると、ホットドッグを売っている女の子が声をかけてきた。桔平くんって、やっぱり学校内で人気あるんじゃないの?

「あれ、もしかして彼女!?」
「彼女。愛茉、ホットドッグ食う?」
「うん、食べたい」
「彼女、めっちゃ可愛い……」
「だろ?レタス好きだから、増量してやって」

 桔平くんの言葉に、女の子は笑顔で頷いた。ヨネダ珈琲のカフェオレのこともそうだし、桔平くんは常に私のことを考えてくれている。

「ほら、こぼすなよ」

 桔平くんから、レタスがマシマシのホットドッグを受け取った。

 あたたかくて、優しい目。視線を交わすだけで、心の中が満たされていくのが分かる。

 付き合ってから、まだ3ヶ月足らず。出会ってからもたった4ヶ月しか経っていないけれど、1日1日、どんどん桔平くんを好きになる。

 “大好き”の気持ちに、上限ってあるのかな。きっとないんじゃないかな。だって一緒にいる時も、会えない日でも、“大好き”が毎日更新されていくんだもん。

 鋭いけれどあたたかいグレーの瞳、細く通った鼻筋、少し薄い唇、大きい手に繊細な指。適度に筋肉がついていて手足の長い綺麗な体に、私の名前を呼ぶ少し低くて落ち着いた声。考え事をしていて目玉焼きを焦がした時のしかめっ面も、クラシックを聴きながらリラックスしている表情も、絵を描く時の研ぎ澄まされた顔も。桔平くんの全部が大好き。