「オレも、すげぇ大好き」

 名状しがたい想いを、無理矢理言葉に乗せる。オレの感情を完璧に表現する単語は、今のところ見つかっていない。それでも伝わっているだろう。オレがどれだけ、愛茉の傍にいたいと思っているのか。

 どうか、いなくならないで。毎晩眠りにつく前に願うのは、それだけだった。
 そして朝起きると、真っ先に隣を確認する。ここのところオレの方が早く目覚めるのは前の晩に無理をさせているせいかもしれないが、愛茉のあどけない寝顔を眺めるのは、何よりも幸せな時間だった。
 
「んじゃ、愛茉ちゃんとは順調なわけか」

 これでもかというほど甘いものを詰め込んだチョコレートパフェをつつきながら、翔流が言った。
 
「おかげさまで、今のところ平穏だな」
「あ、うま。桔平も食う?」
「いらねぇよ。胸焼けする」
 
 翔流が読みたいという分厚くて重たい本を持って渋谷まで出てきてやったというのに、何が悲しくて男2人で1つのパフェを食わなきゃならないのか。
 甘党の翔流は、いつもこんなものばかり食べている。今は痩せているが、糖尿病まっしぐらだろう。

「まぁ、安心したよ。桔平は、誰とも付き合う気ないのかと思ってたし」

 本当は、そのつもりだった。もう心を動かされる人間と出会うことはない。そう思っていたからだ。
 ただ、他人に対する感情を殺す術を覚えてしまった自分にも、人を愛する心はまだ残っていたらしい。

「お前、完全に鬱だったじゃんか。スミレさんと付き合ってる時は」

 オレがスミレのことを思い出したくないのを知っていて、あえて言う。翔流には、そういうところがあった。地雷原だろうが何だろうが、プロテクターなしで平気な顔して踏み込める。この天性の図々しさと打たれ強さが、ある意味で翔流の魅力でもあった。
 
「俺には、あの人がわざと桔平を追い込んでるようにしか見えなかったしさ」
「わざと追い込んでたんだろ、どう見ても」
「良い絵を描かせるために?」

 嫌悪感たっぷりの表情で、吐き捨てる。
 翔流はスミレの異常性を嫌悪していた。それも仕方ない。スミレといることでオレが壊れていく様を、最も間近で見ていたわけだから。