「何話してたの?」
「桔平君の普段の服装が、派手で奇抜だって聞いたんだよ」

 なにがどうなってそんな話題になったのか分からないけれど、2人ともかなり打ち解けたみたい。私のせいで重い空気になってないかって心配していたけれど、楽しそうな様子に胸をなでおろす。
 
「うん、びっくりするぐらい派手だよ。でもすごくオシャレで似合ってて、かっこいいの」
「桔平君は、背が高くて顔が小さいもんなぁ」

 良かった。お父さん、普通に笑っている。

 その後はお母さんの話題になることもなく、お父さんと桔平くんは楽しそうに会話をしていた。お父さんは桔平くんの話に興味津々といった様子で、日本画についてあれこれと質問していて。2人はとても相性が良さそうに見えた。

 本当は私の家に泊まってほしかったけれど、お父さんはホテルに戻って仕事の続きをしなくちゃいけないらしくて。でもこれから東京に来る機会も増えるみたいだから、きっとまたすぐ会えるかな。

「桔平君。愛茉のことを、よろしくお願いします」

 別れ際、お父さんがそう言って桔平くんに頭を下げた。桔平くんはハッキリした声で「はい」と言って、同じように頭を下げる。
 そのやり取りを見たら胸がいっぱいになって、涙が出そうになった。なんでだろう。

 それから桔平くんと手を繋いで帰宅して、一緒にお風呂に入った。何となく、今日は片時も離れたくなかったから。

「私、薄情な娘かな。親が死んでも涙ひとつ流さないなんて」

 お風呂から上がってベッドで抱き合っている時に、ポツリと訊いてみた。

「涙を流すから優しいってわけでもねぇしな。それに愛茉が泣き虫になるのは、オレの前だけじゃんか」

 頭を撫でながら、穏やかな声で言ってくれる。桔平くんの優しい言葉に期待して、わざとこんなこと言ってしまう私は、やっぱりずるいのかもしれない。

「泣きたくなったら、その時にここで泣けばいいよ」

 私を胸に抱きながら言ってくれる言葉は、何よりも温かくて。涙が出てきたのは、お母さんを想ってじゃない。やっぱり桔平くんがいてくれて良かった。私ひとりじゃ、またふさぎ込んでしまうところだったから。

 でも私には、ずっと隠していることがあった。きっと受け入れてくれる。それは分かっているし、桔平くんの愛情を疑ったことは一度もない。それなのに、話す勇気が持てなくて。やっぱり人は、そう簡単には変われない。私はずるいまま。

 こんな私でごめんね。

 心の中で謝りながら、桔平くんの胸で泣き続けた。