気が重かった。

 知らぬ間に握りしめていた手が、手汗でねっとりと濡れている。

 それを隠すように、両手をズボンのポケットに入れ、歩いた。

 すぐ近くに見える商店街は、夏祭りの準備だろうか、たくさんの提灯が、あらゆるところにぶら下げられている。

 それを横目で見ながら、長い橋に足をかけた。

 歩行者以外通行禁止のこの橋は、デートスポットなのだろう、何組ものカップルが手を繋ぎ、談笑しながら歩いて行くのが見える。

「空が広ーい」

 俺を追い越し、少し走って橋の中央へ向かい、美代は手を広げて空を仰いだ。

 その無邪気な姿にまた、気が重くなる。

「ほら、先輩、早く」

 苦笑いし、小走りに彼女へ近づいた。

 彼女は嬉しそうに笑い、またも少し遠ざかって俺を呼ぶ。

 気が重いのはそのはずだった。

 今回のデートを最後のデートにしようと思い、ここに来たのだ。

 このまま付き合って彼女を傷つけたくない。

 だが、一度Yesと答え、嬉しそうに笑った彼女にこんなにも早く返事を覆すのは、自分にとってもきついことだった。