噴水で彼に会って、数日が経った。

 会った、と言う表現は間違っているかもしれない。

 でも他にどう言えばいいのか、わからなかった。

 もう一度、あの噴水へ行ってみようか。

 あれから何かと忙しく、余計な私事を済ましている暇はなかった。

 夢の中にも、彼は現れなかった。

 今ならちょうど、少し時間が空いている。

 クローゼットから上着を取り出し、銀の細いダガーを脇に忍ばせた後、私は扉に手をかけた。

「あっ」

「シーラ」

 彼女はちょうど扉を押そうとしていたのだろう。

 私が扉を引いたことで、行き場を無くした手がバランスを崩し、よろめいた。

「おっと……危ないな」

 倒れ込んできた彼女の身体を、上着を持っていた左腕で受け止め、右手で彼女が抱えていた書類を受け取る。
 
 彼女は慌てて私から身体を離し、すみません、と私が受け止め損ねた書類を拾い集めた。

「どうしたの」

 全ての書類を受け取り、軽く中身を確認する。

「アロイス殿下が、レジス様に、と」

 中身は私の領地の資料と、アロイスの領地の資料だった。

 僅差ながら、領地民から取った作物の収穫のアンケートの数値が私の方が劣っている。

「挑発か」

 机に書類を無作法に放り、私はくす、と笑った。

 こんなことしなくても、このままいけば彼が王位を継ぐだろうに。

 例え従兄弟の彼より、現国王の子供である私の方が有利に見えても、所詮私は……私では。

 自嘲するように、小さく笑いが漏れる。

 シーラが顔を伺うのがわかった。

「レジス様、これから外出なさるところでしたか? どこかへいらっしゃるなら、ユリカを呼びますけれど」

「ああ、いや、中庭まで出ようと思っただけだから」

 従者を呼ぼうとする彼女を制し、持っていた上着を羽織った時だった。

 ちょうど、今シーラが呼ぼうとしていたユリカが、珍しく焦った表情で廊下を走ってくる。

「ユリカ?」

「レジス様! あの、今、中庭で……っ」