最近は、風の他にももう一つ、気になることがある。

 それは夢だ。

 二、三年前から見るようになったその夢は、真っ暗闇の中に一人の綺麗な人が立っているものだ。

 女性なのか男性なのか、微妙に判別がつかない中性的な顔をした人。

 でも俺はなぜか、女性だと思っていた。

 腰まで届きそうな、緩くうねる金髪のせいだろうか。

 それとも、なんだか心許ない、少し寂しそうなシトラスの瞳のせいだろうか。

 彼女はいつも立って、少し高いところから俺を見下ろしている。彼女の立っているところだけ、なんだか光って見えた。

 俺は吸い込まれるように彼女を見つめ、近寄ろうとするが、足を動かしてもちっとも近寄れない。

 手を伸ばそうと試みるが、決して届かない。

 言葉を発しようとするが、何か違う、話しかけてはいけないと思って、毎回口を閉ざしていた。

 彼女の肌は透き通るように白くて、華奢な体はまるで少年のようだった。彼女は何も言わないが、だからこそ神秘的で美しいのだと、毎度夢で会う度に思う。

 現実で会うことはないが、幾度となく夢の中で会ううちに、俺は次第に、彼女に惹かれていくのを感じていた。

手の届かないものへの憧れかもしれない。捕まえたいような、一生触れたくないような、微妙な気持ち。

 そんな気持ちを抱えたまま、幻想的な夢はいつも幕を閉ざした。

 図書館の、できるだけそばの駐車場に車を止め、素早く傘を差して屋根のあるところまで走る。

 土砂降りの雨は当分止みそうもなく、強く地面を打ち付けていた。