危ないっ! と姉さんが叫び、咄嗟に急ブレーキを踏む。

 運良く背後に車はなく、俺は早足で車を出て、フロントガラスに張り付いたレジ袋を回収した。

「……いやね、危なくて。本当に、最近風が強いんだから」

 風が、強い。そう、最近俺は何かと風に邪魔されている。

 先週は書きかけの手紙が、強い風で開いた窓から飛ばされ、その前は美代に渡そうと思った映画のチケットを飛ばされた。

 昨日は昨日で、洗濯物を干そうと庭に出たら、下着が隣の家のベランダまで飛んでいって恥をかいた。

 あまりそんなことが重なると、まさかとは思いつつ、何か風の恨みでも買ってしまったのか、なんて思ってしまう。

「あ、ここでいいわ。止めて」

 車を歩道の方に寄せ、ゆっくり止める。

 姉さんは助手席から降りて、窓越しに手を振った。

 唇を少し大げさに動かし、あ、り、が、と、う、と伝えているのがわかる。

 手を振って応え、姉さんの後ろ姿を見送った後、車を再び動かし走らせた。

 家に帰ろうか、とも思ったが、折角外に出たのだから、図書館にでも行こうと思いつき、方向転換した。

 少し走ると、天気予報士が言っていたように、土砂降りになってきた。
 
 直に受けたら痛そうな、大粒の雨がフロントガラスを打つ。

 ワイパーをマックスに動かしても足りないくらい、次から次へと降る雨に、逃げ惑う人達が横目に見えた。