私たちはそのまま水族館へと向かう。

予定では水族館で遊んだ後にご飯を食べて、午後からは遊園地で遊ぶことになっている。

 どこも沢山の人で賑わっていたが、水族館の中に入ると特に賑わいが大きく感じられた。

 途端、目の前には巨大な水槽と大量の魚が眼前に映し出され、思わず声を上げる。

「なにこれ!すごい!!マグロがいっぱいいる!」

「雪葉はしゃぎすぎだって」

 翔くんは少し周りの目を気にしているようにも見えたが、それでも私に付き合ってくれる。

こんなにも幸せなことがほかにあるだろうか。

そう思いながら、私はまた、愛をかみしめる。
「あの子翔くんに似てない?」

 一羽のペンギンを指でさして、言ってみる。

「そーかあ?」

 少し口元を綻ばせながら、翔くんが首を傾げる。

「そうだよ!凛々しい感じとか餌横取りするとことか!」

「じゃああいつが雪葉だな。よく転ぶし飼育員さんにベッタリ。それから泳ぎが速い」

「んー、それあんまり褒めてない!」

「泳ぎが速いは褒めてるだろ。それに飼育員さんにべったりなのはかわいいって意味だからな」

 翔くんは、よく気障なセリフを吐く。こういうところも私は好きだ。

「翔くんそういうとこずるい」

「なんでだよ」

 クスッと笑いながら翔くんが言う。

「翔くんにべったりな私にそんなこと言ったらもっと好きになるに決まってるじゃん」

 掴む手を翔くんの指から腕へと変えて、甘える声でぼやく。

「あはは。かーわい。もっと好きになっていいんだぞー」

「んふふ」

 響かせた声はきっと、翔くんにしか聞こえていない。
 
 
「ねえご飯食べよーよ。お腹すいてきちゃった」

「あそこのペンギンランチ雪葉好きそう」

 その方向をみると、いくつかのおかずとペンギンの形をしたライスの写真が載せられている。

「え!なにあれかわいい!」

「やっぱり。じゃあお昼はあれにするか!」

「いいの!?でも翔くんが他に食べたいものあったら…」

「俺は雪葉が食べたいものを一緒に食べたい」

「ええ!嬉しい!ありがとう。大好き!」

「かわいいーー」

 スプーンを口に運ぶ翔くんとペンギンランチにスマホを向けながら、そうつぶやく。

「雪葉の方がかわいいよ。」

「またそういうこと言うー!嬉しいけど」

「でも私から見たら翔くんの方がかっこいいよ」

 何とか応戦して言い返す。

 微笑む翔くんを前に、私はペンギンの形をしたご飯をゆっくりと切り崩す。パセリだけを残して。