プツリ……

 突然俺が抱きしめている彼女の体の中で、そんな音がしたのを感じた。

 途端に彼女は目を閉じ、糸が切れたように俺に向かって倒れ込む。

「あっ!!」

 かろうじて床に叩きつけられるのを防ぐと、急いで腕の中の彼女に声を掛けた。
 しかし彼女は苦しげな表情のままビクともしない。

「やっぱり、俺じゃ……」

 しばらくの間俺は、動かない彼女を抱きしめたまま呆然と床に座り込んでいた。

 俺は別れの最後まで彼女に何もしてやれないのか。
 俺のもとに来てくれたのに、何も出来ないままで……

 悲しんでいる場合じゃない。

 彼女は魅力的だ。誰もが振り返るほど綺麗だと俺は思っている。
 そんな彼女がこのまま動かず、これからいくらでも楽しいことが待っているであろう未来を迎えられないなんて耐えられない。

 もしかしたらアンドロイドとして機能していないものとして、スクラップになる可能性だってあるのだから。

「……君を元通りに直す方法を、必ず見つける。君が笑顔になる方法もね。もし俺のことを全て忘れてしまっても構わない。君の幸せだけを祈る。今まで君に何もしてやれなかった俺の、唯一出来ることかもしれないから」

 苦しげな表情で目を閉じて動かない彼女を強く抱き締めたまま、俺はそう誓った。