君の笑顔をください 〜アンドロイドの君へ〜

……

『なあ君、この家を出たいか……?』

『君にはリセット機能があるだろ?でもさ、俺には無いんだよ。だから代わりに君をしっかり覚えていたい。さよならの前に、抱き締めさせて……』

『俺を見てくれないの?……君は俺がそんなに嫌いなのか。ごめんな、でも今は君を離したくない。もう少しだけ、いいかな……?』

 あのとき、彼女は何も言わなかった。
 ただ表情を悲しげに歪めていた。
 そして彼女はそのまま動かなくなって……

……

 そうだとしたら俺は、彼女になんてことをしてしまったのか。

 彼女は俺が逃げにまわって想いを伝えなかったばかりに、俺のそばに自分がいることでは満足をしていないと思っていたのか?

 彼女は従順だった。
 もしかしたら『ここに居たい』と、自分からは俺に言わなかっただけなのかもしれない。

『……お願いします、マスターのために……』

 彼女は『見捨てられてしまう』と言っていた。
 きっと必死だったのだろう。
 いくら俺が彼女を褒めようと、好意も伝えられず感謝も感じられずに居たのなら、いつか自分は用済みになってしまうと。

 ただでさえ俺自身、笑顔のない彼女に知らず知らずでも表情を曇らせていたに決まっているのだから。

 彼女はもしかしたら俺の放った言葉のせいで悲しみに耐えられず、自分の不調すらも黙ったままで……

 やれるだろうか?
 こんな馬鹿みたいに呑気で、臆病な自分にも。

 動かない彼女をもう一度目覚めさせ、逃げることなく想いを伝えることを。

「……やる。俺、君を直してみるよ。そして……勘違いならごめん。君に嫌われていたわけじゃなかったかもなんて、今俺は思ってるんだ。それでも、君にしっかり伝わるまで謝って、今度こそ君に……」