「こわ、かった」
「うん」
「連絡、できなくて」
「してくれたよ」
「でも、助けに来てくれて」
「うん」

「嬉しかった」


ぽろりと、もう一つだけ涙が零れる。


「もっと早く行くべきだった」

ハンカチを渡されて、自分でも持っているけどありがたく受け取る。


「ちゃんと来てくれたよ」

そう言って笑えば、どこかまた苦しそうな顔をする青野くんにこっちまで胸が苦しくなって。


「浮かれてたんだ」
「え?」


まるで懺悔するかのような告白だった。


「あの時、新刊が出てるって真っ直ぐに見て言われて。まさか覚えてるなんて思いもしなくて。それにその本を読んでるところも見かけて」


知ってたんだ。

あの時初めて見られたと思っていたけど、青野くんのいる図書室でも堂々と読んでたんだから知られてても不思議ではないのか。


「それで、あの日屋上にいたら、喧嘩みたいな声が聞こえて。関わるの面倒くさくて、ほとぼりが冷めるまでじっとしてようって」


深い海が揺らぐ。


「そしたらあまりにも喧嘩とは呼べなさそうな声が聞こえたから、慌てて見に行ってみればあんなことになってて」


瞳が伏せられて、綺麗な青が見えなくなってしまった。


「あの時、すげぇ後悔した。もっと早く行ってればって。それなのに今日も結局こんなことになってしまって」

「そんなことない!」


ぎゅっと握りっぱなしだった手に力を込める。