「佐原さんって、好きな人とかいるのかな?」
「急になんの話し?」
放課後、夕日が照らす教室で相談があると友達の透に、この俺 千田春一《せんだはるいち》は呼び出されていた。
「佐原さんって百瀬さんと仲良いじゃん?」
「うん、そうだね」
「そこで春一の出番だろ」
「いや意味わからないんだけど。その辺詳しく教えてくれない?」
突然時間を欲しいと声をかけられ何かと思ったら恋愛相談のようだ。幸いクラスには俺たち二人だけだから誰かに聞かれる危険はないにしろ、校内には少なからずまだ生徒がいるというのに。まさかその相談が恋バナとはな。
「つまり、佐原さんの身辺調査を依頼したい!」
「それなら透の方が詳しいんじゃないの?」
佐原さんはうちのクラスでは大人しめな子だ。あまり目立つ方ではないが、清楚で時折見せる笑顔に胸をときめかせる男子が少なからずいるらしい。その一人が透という事なのだろう。
どうしてそこまでの事を知っているのかというと、俺が透が佐原さんの事を好きな事は前から知っていたからだ。
高校二年生になった今でも、昨年から同じクラスの佐原さんの事を透はよく視線を送っていたからな。それになにより、二人はすでに側から見てもだいぶ仲が良い。
「いやいや、俺よりも百瀬さんの方が仲良いって。女の子同士だし」
「そりゃあ、まぁ、そうだろうな」
異性に話しにくいことだってあるだろうしな。
「春一はさ、百瀬さんと仲良いだろ?」
「まぁ、夏樹とは中学から一緒だからね」
百瀬夏樹。中一から同じクラスで高校も一緒。
いわゆる腐れ縁という奴だ。席も近い時期があったから、今や女子の中では確かに仲が良い友達ではある。
そんな夏樹とも今年も同じクラスなわけで、だからこそ透は俺に相談を持ちかけてきたのかもしれない。
「だからさ、佐原さんの好きなタイプとかそれとなく聞いてくれないか?」
俺は夏樹とは仲が良いが、佐原さんとは友達の友達という感じでそこまでの関係は築けていない。むしろ、先程俺が言った通り、透の方が俺なんかよりも仲が良いはずだ。なぜなら。
「透はよく佐原さんとは二人で帰ってるじゃん。俺から見ても十分にもう仲が良いと思うんだけど」
しかも、誘ってくる比率でいえば佐原さんからの方が多いと客観的に見てそう思う。
「いや、それと好きなタイプは別の話だろ?」
おいマジか、どう考えても同じだろう。ここまで透が鈍感な奴だとは思わなかった。