せとかへの誕生日プレゼントが決まって、昨日は嬉しくてなかなか眠れなかった。

 朝、テンションが上がりすぎないようにいつも通りに「おはよう」って挨拶をしたつもりだったけど、せとかがなんだか少し元気がないように見えた。

 ちょっと、やっぱりテンション高めな俺に引いてしまったんだろうか? なんて、浮かれていた。

 だけど、友達と話している横顔を見つめていても、今日は一度も目が合わない。普段がラッキーだっただけなのか? と、考え込んでいたら、廊下で鉢合わせた時に、ようやく目が合った。
 嬉しくて笑顔を向けようとした俺よりも先に、せとかの視線が外れる。

 あれ? 明らかに目は合っていたはずなのに。いつもなら、照れたように笑ってくれるのに。そう思っているや否や、もうそこにせとかの姿は無くなっていた。

 あれ? 逃げた? もしかして俺、避けられてる? なんで?

 その後も、当然のように教室でも廊下でも一度も目を合わせてくれない。というか、その前に俺の近くに全然寄りつかない。どう言うことだ?

 放課後、どうしてもせとかが俺を避けている理由が知りたくて、必死で姿を探した。
 ようやく、普段滅多に人が来ない準備室の外階段で、一人肩を震わせているせとかの姿を見つけた。

 泣いてる? そう感じて、どうしようもなく胸が苦しくなった。ここまできて、後戻りするのは嫌だと、腹を括って声をかけた。

「せとか?」

 俺の声に反応して振り向いたせとかの目元が、ほんのり赤くて、心配になってしまう。
 やっぱり、泣いていたのか。
 どうして? なんで? 気になるけれど、聞いたところで俺に話してくれるかもわからないし、俺が解決してやれるかもわからない。

 制服のポケットに、昨日買った星形のキャンディを忍ばせていたことを思い出して、少しは元気になってくれるかな。そう思って差し出すと、せとかはやっぱり俺の欲しい笑顔を向けてくれた。
 一気に安心した。
 せとかを泣かすやつは許せないけれど、この笑顔を見てしまうと嬉しくて、胸の中がきゅんでいっぱいになる。
 なのに、

ー彼女いる人の事好きとか、もう無理だよね?ー

 せとかの言葉に、一瞬呼吸を忘れた。
 もしかして、好きなやつに彼女が居たことを知って、ここで泣いてたのか? 今日一日元気がなかったのは、そのせいだったのか? 頭の中が急に混乱し始めて、苦しくなった。
 なんだよ、勝手に、両想いだと思ってた……バカじゃん俺。

 せとかが目の前で苦しんでいたのに、ずっと一人で浮かれてた。好きなやつって誰だよ。そんな奴いるなんて聞いてねーし。俺じゃダメなのかよ。

「やめとけよ、そんな奴」

 気が付いたら、冷たく言い放っていた。せとかが誰かを好きとか考えたくなくて、俺のことを好きでいて欲しくて、どうしようもなくなって去って行く後ろ姿を、追いかけることも出来なくて、ただ見送った。