一緒にいて、話をして、笑い合って、それだけでも満足で。好きを伝えたいけれど、勇気が出なくて。
 あたしの好きの気持ちはどんどん膨らんでいくばかり。パンパンになって破裂しちゃう前に、伝えられると良いな。

 次の日の帰り道、数メートル先の交差点にあたしの真山くんアンテナが真山くんの姿をとらえた。
 さすがあたし。こんなに遠くにいるのに存在をキャッチ出来るとか、重症かもしれない。
 好きすぎる想いにため息を漏らしながら、足を止める。見つけた真山くんの横顔をつい見つめてしまう。
 やっぱりあの笑顔は最高だ。
 誰がなんと言おうと、カッコ良すぎるくらいにカッコいい。
 きゅんとなる胸の前で思わずギュッと祈るように両手を組んで握り締めた。

 一緒に歩いていた周りの友達と、手を振って別れた真山くん。
 思い返せば、いつも声をかけてくれるのは真山くんからな気がする。だって、自分からなんて、恥ずかしくて無理だったから。

 でも、なんとなく今なら、思い切っていけそうな気がする。

「はちみつキャンディーおいしかったよ」って、話しかけるきっかけもある。

 真山くんが一人になったら、勇気を出してあたしから声、かけてみようかな。

 恋に前向きになり始めたあたしは、浮き足立つその一歩を踏み出そうとして、すぐに動きを止めた。

 胸の前で握っていた両手が力無く解けて下がっていく。

 誰かに気がついて、笑顔で手を振る真山くん。視線の先をゆっくり辿る。
 遠くから、同じように笑顔で手を振る紗和先輩の姿に、下がった腕の指先が冷たくなっていくような気がした。

 たった一言、声をかけるだけのちっぽけな勇気が、紗和先輩と歩いて行ってしまう真山くんの後ろ姿に消えていく。
 あたしの中の満たされていたきゅんが、一瞬のうちにみんな無くなって、みるみるうちに萎んでしまった。

 二人の距離があたしから離れていくほどに、あたしの真山くんへの心の距離も離れて行ってしまうような、置いてけぼりのような、そんな気持ちになって、二人のことを見ないように目を逸らした。

 真山くんアンテナも閉じることにした。