「颯汰(そうた)、一緒帰ろ〜」
「あ、紗和先輩。別に良いですけど、なんか最近変な噂流れてるんであんまり近寄んないでください」
「あー、つめたーい。そう言われると近づきたくなるのよねー」
「は?! やめてくださいよ、マジで」
「はははっ、今日も颯汰んち行くね〜」
「だーかーら、その言い方。誤解されるんで」
「いーじゃん別に。本当のことだし」

 兄ちゃんの彼女の紗和先輩はとんでもなく陽気だ。
 俺が中学に入学する前から兄ちゃんと付き合っていて、たまにうちに遊びにきていたから、すっかり俺の姉になった気でいる。まぁ、元気がすぎるだけで悪い人ではないから別にいいんだけど。
 にいちゃんが卒業して入れ替わりで俺が入学してきたから、兄と離れて不安なこともあるんだろう。毎日のように兄ちゃんの様子について聞きに来るから、俺と付き合っているなんて、変な噂が立つんだ。

「颯太と噂になってから、告白されること減ったんだー、ありがとーっ」
「俺を虫除けみたいに扱わないでください」
「あはは! それいいね!」
「いいねじゃないですって」

 ため息もつきたくなる。別に噂なんて俺もどうでもいいんだけど、誤解してほしくない人が一人いる。

 なんとなく、校舎の方に振り返って教室に目を向けると、せとかの後ろ姿を見つけた。

 こんなに離れているのに分かっちゃうって、相当だな。って言うか、こっち向けよ。

 心の中でそう思って、後ろ向きのまましばらく歩いてみるけれど、振り向いてくれなくて少し寂しい。
 また明日も、せとかよりも早く教室にいよう。朝一番に会いたくて、姿が見えた瞬間に迎えに行くように「おはよう」って挨拶する。毎回照れたように返してくれる「おはよう」がたまらなく好き。
 せとかの後ろ姿をもう一度見上げて、心の中で「バイバイ」と呟いた。