「聞いてる?
桜木くん」

「あ、えっと、
何ですか?三上先生」

「さっきから言ってるのに。
もう、教師と生徒じゃない、社会人同士なのよ?

私たち、
先生呼びはなしにして、って」

それは、期待して、いいのだろうか。

俺が今、彼女に『好きです』と言ったら、どんな反応をするだろう。

「ここでいいわ。

わざわざありがとうね、桜木くん」

彼女は、決して新しいとは言えないアパートのエントランスで立ち止まった。

彼女は2階に一度引っ込むと、ペットボトルのコーヒーを渡してきた。

ペットボトルのコーヒーには、付箋が貼り付けられていた。

なんの脈絡もないアルファベットと数字の文字列は、チャットアプリのIDだろうか。

『何か悩んでる?
時間のある時にご飯でもどうかしら。
その時にゆっくり、話を聞かせてね』

「いつでも連絡してください。
呑みは危なっかしいから、ちゃんとした店でディナーでも奢りますから。

一応、俺も社会人なんでね。

いつまでも寒空の下にいると風邪引きますよ。
暖かくして寝て下さいよ」

俺がそう声を掛けると、彼女は快晴の空みたいな笑顔を見せてくれた。

……その可愛い笑顔、反則だろ。