「ったく、この寒いのにそんな格好してるからですよ。

襲ってくれ、って言ってるようなものじゃないですか。

帰りますよ、三上先生」

「桜木くん!?
あの、えっと、どうして……」

「帳や優弥じゃなくて悪かったな。

あ、優弥は、次の春から正瞭賢に来るってさ。

帳の方は、吹奏楽部の指導が思いの外楽しすぎる、ってさ。

そもそも、近い将来籍入れたら同じ学校にはいられなくなるしな、離れてるほうがお互いのためだとは思うけど。

仲良くしてやってな、優弥をよろしく、三上先生」

雪の降る中、傘もささずに帰ろうとして。
万が一にも、風邪で休んだら生徒たちが心配するんじゃないですか。

送って行きますよ。

危なっかしくてしょうがない」

言ったそばから、雪道に足を取られて転びそうになった彼女の華奢な手を引く。

「三上先生は、俺の手だけ握ってて下さい。
地下鉄の入口まで来れば、この手は離しますから。

鞄も、貸してください。

好きな女性に怪我させる男なんていませんし」

半ば強引に、彼女の肩に下げられているネイビーの鞄を奪い取る。

ずっしり来るなかなかの重さだった。

鞄の中身はダンベルか何かなのか?