あいにく、こちらにはそんな手技はない。

俺は平和主義者だ。

「嫌がってるじゃん。

そういう趣味な男は、一生モテないと思うけど。

それに、この子はもう、この後俺と飲む約束だから。

分かったら、その手、離してくれる?

それとも、もっと痛い目に遭いたいのかな」

「何だテメェ!」

こういう野郎が、俺は一番苦手だ。

同じ性別だと思うと吐き気がする。

昔、まだ高校生だったときに、同級生の優弥(ゆうや)道明(みちあき)に教わった合気道の技。

習ったのは1回きりだったので、技名は忘れた。

たやすく男1人をうっすら雪の積もった地面に倒す。

「まだやる気?

お兄さんも、無意味に痛い思いしたくないでしょ。

俺も、こういうのは苦手だから、あまりやりたくないんだよねぇ。

逃げたほうが身のためだと思うよ」

「チッ、覚えとけよ!」

それだけを言うと、一目散に逃げて行った。

こういう輩には普段は知らぬ存ぜぬを決め込むが、今回は不可抗力だ。