バーテンダーさんが、そんな俺の物思いに気付いているのかいないのか、モッキンバードを出してきた。

「淡い思い出に囚われたままでは、進めませんよ。

あの方と似た者同士とご推察します。

似た者同士、上手くいくことを願って、この一杯を貴方に」

気付いたら、カウンターにいた女性はすでに帰ったようだった。

俺も後を追うように会計を済ませる。

店の扉に手を掛けたとき、バーテンダーさんに呼び止められた。

すると、バーテンダーさんの大きな手に似つかわしくない、可愛らしい傘が目に入った。

「どうやら、先程のお客様のお忘れ物のようです。
お知り合いのようなので、届けてあげるとよいのではないでしょうか。

初雪が降って、凍えそうな寒さですし。

それでは、お気をつけて」

ドット柄の可愛らしい傘を片手に持ちながら、目を皿のようにして彼女を探した。

なんで俺が、初雪の夜に人捜しをしなくちゃならないのだ。

生憎、今日は華金ではない。

週の真ん中、水曜日なのだ。