俺の名前は鷹邑 律(たかむら りつ)26歳、家から車で5分ぐらいの所にある“稜楠(りょうなん)大学医学部附属病院”に勤める呼吸器内科医だ。
俺の家族はみんな医療従事者で同じ病院に勤務している。

俺が医者になろうと心に決めたのは親に言われたからとかじゃない。
16年前…俺がまだ小学生だった頃、実家の隣の霜月さんの所に可愛い女の子、莉央ちゃんが生まれ、俺には兄貴しかいなくてその子がまるで妹のように思えて嬉しくてたまらなかった。

その子が中度の喘息だと診断されたのは2年後の事だった。
俺の親父は小児科医だったから莉央ちゃんの主治医になった。
それから元気だった莉央ちゃんは喘息発作や熱を出すようになってよく体調を崩すようになった。
入退院を繰り返し、酷い時はICUに入るまで悪化し、あんな小さな身体でいろんな管に繋がれ、人工呼吸器までつけられながらも必死に生きようとしている莉央ちゃんを見て自分の無力さに情けなくて涙が止まらなかった。


(大人になったら絶対医者になって莉央ちゃんを助けてみせる!!)


これが俺が呼吸器内科の医者になろうと心に決めた出来事だ。
あの頃はずっと莉央ちゃんの傍にいてあげられる、そう思っていた。
悲劇がおきたのは俺が高校二年の3月に入ってすぐの頃だった。


「……は?おじさんとおばさんが…死んだ…?」


学校から帰宅すると親父に伝えられたのは莉央ちゃんの両親が大型トラックによる事故で亡くなったという悲報だった。
その現場には莉央ちゃんも居て、莉央ちゃんは奇跡的に軽症で助かったけどおじさん達は即死だったと聞かされた。