(海視点)
 英語のテストが返ってきた俺の点数は96点。得意分野にしても高校生にしてはよくできたほうだと思う。でもきっと空は俺より上の点数を取ったんだろうな。点数の上に書いてある順位を見る。二位だ、もうこの順位のは慣れてきたもののやっぱり一回くらい一位を取ってみたい。
「海ー!テストどうだったー?!」仲の良い友達の楓だ。「96〜。」
「海はやっぱ頭良いなー!俺なんて60点だったぜ、前回より下がったよ。最悪だぁ、母ちゃんにゲーム没収される...」
楓は毎回俺を褒めてくれる。きっと優しいんだろうな。俺は、みんな初めは仲が良くても空のことを知ればそっちに行ってしまうのであまり親しい友人がいなかった。そんな中俺に話しかけてくれたのが楓だ。最初はまたいなくなるんだろうなと思って期待もしていなかった。だが、楓は空のことを知っても俺のそばにいてくれた初めての親友。いつもは言葉にしないけど楓のことは大好きだし感謝している。
「今回は点数取れたと思う。何点以下だったらゲーム没収されるの?」「80点。」
全然駄目じゃないか。今回は苦手なところばかりでたのだろうか?
「どんまい、それはもうどうしようもないな。次頑張れ!」
「ん〜...あーあぁ、俺も頭良かったらいいのになぁ。」
その何気ない言葉に俺はチクリと胸がいたんだ。
ーキーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーンー
「あ、じゃあまたな。」「うん。」
楓が席に帰っていく。『俺も頭良かったらいいのになぁ。』そんな言葉が俺の今までの努力を否定しているように聞こえた。そんなことを考えたくない、楓は味方であってくれているのに。
嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、大っ嫌いだ。
こんなこと考える自分が嫌いだって思っているのにやめられない自分が。
いつか何にも気を使わず素直に楓と笑えたらいいな。他の人みたいに友達を取られる心配に怯えたり、誰かの一番になりたくて勉強に追われる日々を過ごすことなく自然に、心から、仮面のない本当の笑顔で笑ってみたいな。
そう願ってしまうのはきっと当然のことだよね。だってあんな事があったんだもん。

「うみ!」小学校六年生のある日仲の良かった友達に呼ばれた。「何?」軽い気持ちで笑顔で返事をした。
「おれ、もううみとは遊ばない。そらと遊ぶ。」そう言われた時純粋に疑問だった。どうして急にそんなこと言うんだろう?って頭の中がハテナマークでいっぱいになった。
「どうして?」素直にそう聞いてみると「だってそらの方がうみより頭いいし優しいんだもん。そらと遊んだほうが色々お得なんだよ。一鳥に石ってやつだ!」それを言うなら一石二鳥だろ。と思ったけれどそれより気になることがたくさんあった。友達って得とかで選ぶものなの?そんな簡単にやめられるものなの?なんで自分の兄弟に友達をとられなきゃいけないの?
なんで、どうして?...これが理不尽ってやつなのかな?
俺はその時初めて人を恨む気持ちと、今までよく分からなかった「理不尽」という言葉の意味を知った。

ないものねだりってこういうことを言うのかな?絶対に叶わないってわかっているからこそ諦められない、これはとても厄介だ。
だが、俺が一番望んでいることは別にある。俺が本当に欲しいのは自由な笑顔でも、空に勝つことでも、親から存分に愛されることでも