確かに、外へ出たらエレベーターの中よりもずっと涼しいくらいだった。
エレベーターの中の温度は何度あったんだろうとゾッとする。
あのときは暑さよりも恐怖のほうが勝っていて、翔ちゃんの言う通り自覚が薄かったのかもしれない。
でも、こんなに怒らなくても…昨日はやさしかったのに。
ちょっとした抗議のつもりで、口を尖らせつつ上目で彼を見ると、彼はまだ厳しい目を向けている。

「昨日はやさしかったのにって思っただろ」
「え?なんでわかるの?」
「顔に書いてある」
「えっ?」

思わず両手で頰を覆った。

「ああいう場で要救助者を不安にさせないのも仕事のうちなんだよ。でも今は勤務外」
「じゃあ昨日のは営業スマイル的な…」
「嫌な言い方だな。そりゃ、他の人だったら『助かってよかった』で済むよ。でもあおいは身内みたいなもんなんだから、説教のひとつもしたくなるだろ」
「…本当にごめんなさい」

身内、か。それは喜んでいいんだろうか。

「翔ちゃん、お兄ちゃんに内緒にしててくれたんだね。昨夜お兄ちゃんに何も言われなかった」
「やっぱり大樹に言わなかったんだな」

ギクッとした。
私、今余計なことを言っただろうか。