「ただいま」
「あ、おかえり」

21時すぎ、兄が沈んだ声でとぼとぼとリビングに入って来て、ローテーブルの脇に白い買い物袋を置いた。
ガコンとぶつかり合う鈍い金属音がして、中身はだいぶ重そうだ。

「なに?お酒?ずいぶんたくさん…」

兄は口をへの字に曲げ、潤んだ目で私を見つめる。
その顔が、察してくれと訴えている。

「…またフラれたんだね」
「またって言うなよぉ」

悲哀に満ちた声を出し、目元を腕で覆う。
かわいそうなことに、兄は彼女ができても長く続かない。
仕事が忙しくてすれ違ってしまうというのもあるだろうけど、私がここに一緒に住んでいるから、遠慮して彼女を連れてくることが出来ないのも大きな一因だと思う。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
兄は私のことを心配して一緒に暮らしてくれているけど、もう28歳。
私がいたら、いつまでも結婚できないかもしれない。