停電がおさまれば動くだろうと信じ、待つこと早一時間。
状況は全く変わらない。
梅雨が明け、最近気温が一気に上昇しているため、エレベーター内も蒸し暑い。
頭が痛くて気持ち悪く、クラクラしてきている。
怖くて電灯アプリをつけっぱなしだったため、充電ももう底をつきそうだ。
こうなったら最後の手段…
狭いスペースをふらふらと動き回り、背伸びしたり這いつくばったりと怪しい動作を繰り返し、電波がかろうじて二本立つ場所を見つけた。
繋がるのかな。友人へのSOSメッセージは送信できなかったし、電話も無理かもしれない。
不安に思いながら119をタップする。
そもそもこんなことで通報していいんだろうか。
はた迷惑な話なんじゃ…
逡巡する暇もなく、電話は1コールで繋がった。

『119番です。火事ですか、救急車ですか?』
「あの、エレベーターに閉じ込められてて…暑くて体調が悪くて。非常ボタンを押しても反応がないし、業者の電話番号も書いてないんです」
『住所はわかりますか?』
「えっと…」

詳しい住所が定かでないため、大体の場所をつたえて少しやり取りをする。
5分ほどで着くから待っていてほしいと言われ、電話を切った。
…5分?そんなにすぐ着く?
話したことで酸素を浪費してしまったんだろうか。
ますます頭がクラクラして、再び壁に寄りかかって座り込んだ。
このまま目を閉じたら死んでしまうかもしれない…
って大袈裟なのかな。

『おい寝るな!寝たら死ぬぞ!』

雪山の遭難のシーンでこういうのよくあるよなあ。
あれってなんで死ぬんだろう。低体温症?
じゃあ私、今ここで寝ても別に死なないんじゃない?寒くないんだし。
どうでもいいことをぼんやりと考えていたら、甲高い音が微かに耳に届き始めた。
その音はだんだんと大きくなり、鈍っていた脳が通常運転に戻る。