「桜」


んっ?!
1人ぼっちの空間に、優しく甘い声が響く。


「あ、麻倉君?!」


「桜、ここにいたのか」


「えっ、あっ……」


「何でこんなとこにいる?」


急な名前の呼び捨てに戸惑う暇もなく、難しい質問が投げかけられた。


「何でって言われても……困る」


「こんな光も入らないような学校の1番隅っこにいるなんてな。まあ見つかって良かった。本当、ずいぶん探したよ」


さ、探した……?
私のこと探してたの?
どうして麻倉君が私を探すの?


また、頭の中が疑問で溢れた。でも、その答えなんか、私にはわかるはずもなかった。


「べ、別にほっといて。ここにいたいからいるだけ。それに、私達って名前で呼び合う程仲良くないから」


嫌な言い方。
すごく意地悪で、冷たい。
まるでここの空気感と同じ。


春だというのに、薄暗くて肌寒い。こんなところには誰もこないと思ってた。ここは、私が唯一1人になれる秘密の場所だったのに。


「桜とは中学高校一緒なんだし、やっと同じクラスになれたんだからさ」


「……」


そんな訴えかけるような目で見ないでほしい。何を言えばいいのかわからなくなる。


「それにしても長かったよな……ようやくって感じだよな」