涙が止まらない春野に、これ以上かけてやる言葉が見つからなかった。
でもきっと、見つかったとしても、今の春野には何をどんな風に言っても届かないんだろう。


「もう部屋に戻りたい。そしたら、湊君も帰って。私、我慢するの、もう疲れたよ……」


うなだれる春野を病室まで送り届け、俺は病院を出た。


ふと見上げると、さっき屋上にいた時よりも空が遠くに思えた。
下に降りたんだから当然だ。
だけど、なぜか、それだけじゃない気がした。


みんなの「幸せ」が、どんどん遠ざかっていくようで……
ふと、虚しい気持ちが俺の心を灰色にした。


それでも、やっぱり――
俺、黙って見ているわけにはいかない。


「桜の笑顔が戻らなくてもいいのか?」、そんなの絶対嫌だ。


確かに今日は何もできなかったけど、いつか必ず桜に笑顔が戻る日がくると信じ、そして、春野がもう一度ちゃんと歩けるようになる日がくるって――


俺の心は、その2つの願いでいっぱいになった。