「春野、春野 さくら。おい、春野!」


教室に響く先生の声にビクッとして、慌てて顔を黒板の方に向けた。


「は、はい」


「どうした、春野? ボーッと運動場ばかり見て。まあ、いい。この問題、解いて」


頭を下げて、小声で謝る。


ゆっくりと前に出ていき、チョークで答えを書く。数学は嫌いじゃないし、この応用問題はスラスラ解けた。


「正解だ。春野、お前は高3なんだぞ。この1年がどれだけ大事かわかるだろう。授業はしっかり聞くように」


「はい……すみません」


1番後ろの窓側の席に戻る。


座ってすぐにまた外を見てしまう自分に、「前を向いて集中しなきゃ」と言い聞かせるけど、気づけばいつも違うことを考えている。


最近は、毎日がそんな感じで過ぎていく――


ようやく授業が全て終わって帰れるのに、私の口からは大きなため息が漏れた。


リュックを背負い、教室を出ようとした時、


「春野」


誰かが私の名前を呼んだ。


その声に振り返ると、そこには同じクラスの男子が立っていた。


「あ、麻倉君」


「もう帰るのか?」


「……う、うん。授業終わったし、帰るけど」


動揺して、当たり前のことを言った。


「一緒に帰らない?」