天月玲紋(あまつきれもん)
彼はシュワシュワのレモネードみたいな男の子。
スポーツもできて、勉強はちょっと苦手。
とてつもなくイケメン。
そんな欠点がほとんどない彼には弱点がある。
「玲紋ー!」
私が彼の名前を呼ぶと。
沙良(さら)!」
そう言ってぱぁっと顔を明るくさせて。
「ねぇ沙良聞いて、今日数学の時間に応用問題当てられて答えられたのー!」
そんなしょうもない話をしてくる玲紋。
「あぁ、良かったじゃん」
「沙良が特訓|《とっくん》してくれたおかげ!ありがとう〜!」
「どういたしまして」
私の名前は 三日月沙良(みかづきさら)
薬島高校の1年生だ。
玲紋とは中学校からの仲で、去年の春付き合い始めた。
喧嘩もしなくて仲のいいカップルだね、とよく言われる。
帰り道は近くの公園に寄って、自販機でジュースを買ってお喋りする。
自販機はなんと2台もあって、種類が選び放題なんだ。
私と玲紋の家から近い公園だから、あまり人も来ない穴場。
いつものように公園に寄り、自販機にお金を入れていると、玲紋は珍しくその場でスマホをいじっていた。
「玲紋ー?どーしたの?」
カフェオレを購入しながら聞く。
「んー、今日は俺ジュースいいや」
「そーなの?」
1口飲む?とペットボトルを差し出すと、受け取って1口飲んだ玲紋。
まったく、こーゆーとこは遠慮しないんだから。
あまーいカフェオレを1口。
「あっ、今日バイトなの忘れてたー!」
バイト?
「バイトなんかしてたっけ?玲紋」
「この前から始めたんだ!じゃ、ごめんけど行ってくる!」
そう言って慌てて走っていく玲紋を見送り、1人寂しくカフェオレをすする。
甘いカフェオレのはずだけど、ちょっと苦味を感じた。

その後もジュースを飲まなかったりお昼にいつも購買から買うのに家からパンを持ってきたり、放課後にバイトを入れたりと玲紋の様子はおかしかった。
あと1週間後は付き合って1年記念日だけど…玲紋、覚えてるのかな……。
そこから数時間ほど経った放課後のこと。
「玲紋、今日は一緒に帰れる?」
「ごめん沙良、今日もバイトなんだ……」
「なんのバイトしてるの?」
「んーっとね〜、今日はコンビニのバイト!」
「そ、っか……」
曖昧に頷き、バッグに教科書やノートを詰めていると、友達の藤堂くららに話しかけられた。
「ねぇ沙良、今日の放課後空いてない?新しくできたカフェに行きたいの」
「空いてるよ。カフェね…いいよ、行こ」
カフェか…楽しみだな。
急いで帰る支度をして、くららと一緒に教室を出た。

カフェ・ルーラという名前のおしゃれなカフェ。
店内は落ち着いた雰囲気のテーブルとイスが並んでいて、お店の雰囲気によく合った濃い茶色のエプロンをつけているお姉さんがレジにいた。
私はいちごミルクフラペチーノ、くららは抹茶フラペチーノを購入し、外の見えるテーブル席に並んで座る。
「沙良…最近玲紋くんと順調?」
突然の質問に思わずフラッペを吹き出しそうになる。
「なんで?」
そう返すと、くららはスマホの画面を見せてきた。
「……これ、本当かな」
っ…!?
画面には、バイト中のはずの時間に綺麗な女の人と笑って歩いている姿が映っていた。
「……なに、これ…」
ショックで声が震える。
バイト中ってウソついてまでこの女の人と一緒にいたかったの……?
「見せない方が良かったよね、ごめんね」
くららはすっとスマホをしまって、「フラッペまだかなぁー」と会話を中断させた。
「お待たせいたしました。いちごミルクフラペチーノと抹茶フラペチーノで、す……」
「あ、ありがとう、ござい……」
っ!?
「れ、もん……!?」
「さ、ら…なんで、ここに……!?」
「あっ、いたいた!玲紋くーん!」
そこに入ってきたのは、濃い茶色のエプロンをつけたお姉さん。
名札には木村の文字。
「あ、綾さん!どうかしましたか?」
「ちょっとレジかわってほしいの〜、大丈夫?あ、もしかして知り合い?」
「……いえ、なんでもありません。わかりました」
え……。
ウソ、玲紋……?
目から雫が流れ落ちると同時に、私はカフェを飛び出した。
……もう、最悪…っ。
涙を拭ってまた走り出す。
走って走って……いつもの公園にたどり着いていた。
すみっこにあるベンチに座って声を押し殺して泣いていると。
「____っ、いた!」
まだカフェのエプロンをつけたままの玲紋がこっちに向かって走ってきた。
「何」
「ごめん!」
「いやもういいって」
なげやりにそう言って立ち上がる。
「さっきの…綾さん?だっけ、と仲良く喋ってれば?」
そんな捨て台詞しか吐けない自分に嫌気がさす。
「待ってほんとに…なんか勘違いしてるよ!」
後ろから腕を掴まれて、そのまま抱きしめられる。
「何、もう話すことなんて__」
そう言って振り向いた瞬間。
唇に柔らかい感触が走る。
「強引なことしてごめん。こうでもしないと話してくれなそうだったから」
そして玲紋がエプロンのポケットから取り出したものは。
「はいこれ。付き合って1年記念日のプレゼントだよっ」
綺麗にラッピングされたプレゼント。
「開けてみて!」
恐る恐るリボンを解いて。
中から出てきたのは__。
「指輪……?」
「そう!安物でごめんなんだけど……実はペアリングなんだ」
そう言って自分の首元を指す玲紋。
目を向けると、彼は青い宝石がついた指輪に鎖を通してネックレスにしていた。
「ほんとは1年記念日に渡したかったんだよ?だけど沙良が思い違いしてて…このまま食い違ってペアリング渡すのもなーって思って!」
にぱっと笑ってみせる玲紋に、また冷たい雫が頬を伝う。
「うえぇえっ!どーしたの沙良!?どっか痛い!?」
「ううん、違うの……嬉しくて」
それから。
「ごめんね……キツく当たって。それから、ありがとう」
小さなお願いを1つ。
「指輪はめてほしい」
「あいあいさー」
右手の薬指に指輪を通してくれる玲紋。
「病めるときも健やかなときも…なんだっけ、お互いを助け合い、愛し合うことを誓いますか?」
ちょっとセリフ違うけど…まぁいっか。
「誓います」
私たちは、公園の中そっとキスを交わした。