私は連続殺人鬼である。
何人も他人を殺してきた私は今日、恋人を殺し自分を殺そうと思う。
私はすごく悪いヤツなのだ。
それに対し私の恋人は、すごくいい奴。
「いいやつ」なんて単純な言葉で表したくはない。
もっと複雑で、もっと曖昧な。
そんな素敵な人が私の恋人。
恋人はメンタルの弱い私を必死に支えてくれている。
私がどれだけ罪を犯そうと、決して私を見捨ててはくれなかった。
私が死のうとしたのを止めて、自分が傷ついたとしても決して私を嫌ってくれなかった。
それが私の恋人のいいところであり、悪いところでもあるのだ。
恋人が私のことを見捨ててくれれば、嫌ってくれれば。
きっとこんな結末を迎えることはなかった。
恋人は恋人の優しさに殺されるのだ。
『電話かけていい?』
恋人にメールする。
『いいよ。』
一分もたたないうちに返信が来る。
昔、なかなか返信がこなくて癇癪を起こしてしまった以来、すぐ返信がくるようになった。
恋人には申し訳ないことをしたと今は思っている。
ヴーヴーと携帯が鳴った。
表示画面には恋人の名が載っている。
「もしもし」
「ねぇ大丈夫?」
恋人の声はすごく安心できる。
女の子にしては声が低く、男の子だとしたら声が高い。
そんな声だ。
「うん。大丈夫。良ければ今から会えないかな?」
「全然大丈夫じゃないじゃん。声が上ずってる。いいよ君の家でいい?」
この会話も何度目だろうか。
「うん」
私の恋人はこんなにも優しい。
「じゃあ電話切るね。多分三十分あれば行けると思う」
優しい人間を世界から消すことにはためらいがある。
他人を殺した時には味わえなかった感情だ。
けれど私は。
「ごめんね。ありがとう」
「全然大丈夫だって。謝らないでよ」
今から、この優しさの塊を殺すのだ。
「うん、ごめんね」
もうだからいいって、と言われお互い電話を切った。
台所から包丁を持ってくる。
今までこれで何人殺したんだっけな、と思いを馳せたが3人目ぐらいでやめた。
ぐちゃぐちゃ考えるのは私の性分ではない。
面倒になって腕に包丁を突き付けた。
体に異物が貫通したことだけを感じる。
自傷をすると脳内麻薬というものが分泌されるらしい。
それのおかげでテンションが上がったり、痛みを感じにくくなるとかならないとか。
試しに太ももにも突き刺してみた。
もちろん腕に刺さっていたものを抜いたので、びっくりする量の血が手を伝い床へ垂れている。
まあどうせ死ぬのだから、どうでもいいじゃん。
ピンポーンと壊れ気味のチャイムが鳴る。
軽快な音色ではなく、我が家の音はくぐもった濁った音だ。
きっと恋人だろう。
立って出迎えようと思い包丁を抜いた。
太ももからは腕と比べ物にならない量の赤い液体が滴り落ちる。
早くも力が入らなくなり、立つことを諦めた。
恋人なら勝手に入ってきてくれるでしょう。
「お邪魔しまーす」
ほらね。
「合鍵持っといてよかったよ。ねーどこいるのー?」
恋人の声だ。
安心してぼーっとして、頭が何かにぶつかった。
暗くて自分がどうなっているのかイマイチわからない。
「うわ、え、ぬるい。なにこれ。倒れてんじゃん。電気つけるよ」
途端に明るくなり自分が床とぶつかったのだとわかった。
「え、ちょ、赤い。救急車、救急車……あと足と腕止血しないと。まって血、止まんないんだけど」
視界が赤くてよく見えない。
人間の体って脆いんだなぁ。
それとも感覚が無くなってから死ぬまでが長いのか。
早く殺さないといけないのにね。
近くに包丁があるはず。
手探りで探すとそれっぽいものをつかむことができた。
「もしもし、恋人が自殺未遂を起こして……」
やめてよ。
なんで助けなんて呼ぶの?
これは私と君の話でしょう。
ただただ優しい君が、大量殺人鬼の私に殺されちゃう話。
まず死ぬのは、私じゃなくて貴方なの。
「ごめん、ごめんなさい……こんなはずじゃなかった。私は君を」
私は君に罪悪感なんてこれっぽちも抱いてなくて。
沢山の人を殺して、君に迷惑をかけて、世間から批判されている私。
そんな最低な人間が、この先も生きているのが許せなかった。
罪悪感を感じない自分が異質で気持ち悪かった。
けど1人で死ぬのは寂しいからさ。
君を巻き込もうと思ったんだけど。
失敗しちゃったなぁ。
もし私がいなくなることで、君を苦しめるなら申し訳ない。
ごめんね。
何人も他人を殺してきた私は今日、恋人を殺し自分を殺そうと思う。
私はすごく悪いヤツなのだ。
それに対し私の恋人は、すごくいい奴。
「いいやつ」なんて単純な言葉で表したくはない。
もっと複雑で、もっと曖昧な。
そんな素敵な人が私の恋人。
恋人はメンタルの弱い私を必死に支えてくれている。
私がどれだけ罪を犯そうと、決して私を見捨ててはくれなかった。
私が死のうとしたのを止めて、自分が傷ついたとしても決して私を嫌ってくれなかった。
それが私の恋人のいいところであり、悪いところでもあるのだ。
恋人が私のことを見捨ててくれれば、嫌ってくれれば。
きっとこんな結末を迎えることはなかった。
恋人は恋人の優しさに殺されるのだ。
『電話かけていい?』
恋人にメールする。
『いいよ。』
一分もたたないうちに返信が来る。
昔、なかなか返信がこなくて癇癪を起こしてしまった以来、すぐ返信がくるようになった。
恋人には申し訳ないことをしたと今は思っている。
ヴーヴーと携帯が鳴った。
表示画面には恋人の名が載っている。
「もしもし」
「ねぇ大丈夫?」
恋人の声はすごく安心できる。
女の子にしては声が低く、男の子だとしたら声が高い。
そんな声だ。
「うん。大丈夫。良ければ今から会えないかな?」
「全然大丈夫じゃないじゃん。声が上ずってる。いいよ君の家でいい?」
この会話も何度目だろうか。
「うん」
私の恋人はこんなにも優しい。
「じゃあ電話切るね。多分三十分あれば行けると思う」
優しい人間を世界から消すことにはためらいがある。
他人を殺した時には味わえなかった感情だ。
けれど私は。
「ごめんね。ありがとう」
「全然大丈夫だって。謝らないでよ」
今から、この優しさの塊を殺すのだ。
「うん、ごめんね」
もうだからいいって、と言われお互い電話を切った。
台所から包丁を持ってくる。
今までこれで何人殺したんだっけな、と思いを馳せたが3人目ぐらいでやめた。
ぐちゃぐちゃ考えるのは私の性分ではない。
面倒になって腕に包丁を突き付けた。
体に異物が貫通したことだけを感じる。
自傷をすると脳内麻薬というものが分泌されるらしい。
それのおかげでテンションが上がったり、痛みを感じにくくなるとかならないとか。
試しに太ももにも突き刺してみた。
もちろん腕に刺さっていたものを抜いたので、びっくりする量の血が手を伝い床へ垂れている。
まあどうせ死ぬのだから、どうでもいいじゃん。
ピンポーンと壊れ気味のチャイムが鳴る。
軽快な音色ではなく、我が家の音はくぐもった濁った音だ。
きっと恋人だろう。
立って出迎えようと思い包丁を抜いた。
太ももからは腕と比べ物にならない量の赤い液体が滴り落ちる。
早くも力が入らなくなり、立つことを諦めた。
恋人なら勝手に入ってきてくれるでしょう。
「お邪魔しまーす」
ほらね。
「合鍵持っといてよかったよ。ねーどこいるのー?」
恋人の声だ。
安心してぼーっとして、頭が何かにぶつかった。
暗くて自分がどうなっているのかイマイチわからない。
「うわ、え、ぬるい。なにこれ。倒れてんじゃん。電気つけるよ」
途端に明るくなり自分が床とぶつかったのだとわかった。
「え、ちょ、赤い。救急車、救急車……あと足と腕止血しないと。まって血、止まんないんだけど」
視界が赤くてよく見えない。
人間の体って脆いんだなぁ。
それとも感覚が無くなってから死ぬまでが長いのか。
早く殺さないといけないのにね。
近くに包丁があるはず。
手探りで探すとそれっぽいものをつかむことができた。
「もしもし、恋人が自殺未遂を起こして……」
やめてよ。
なんで助けなんて呼ぶの?
これは私と君の話でしょう。
ただただ優しい君が、大量殺人鬼の私に殺されちゃう話。
まず死ぬのは、私じゃなくて貴方なの。
「ごめん、ごめんなさい……こんなはずじゃなかった。私は君を」
私は君に罪悪感なんてこれっぽちも抱いてなくて。
沢山の人を殺して、君に迷惑をかけて、世間から批判されている私。
そんな最低な人間が、この先も生きているのが許せなかった。
罪悪感を感じない自分が異質で気持ち悪かった。
けど1人で死ぬのは寂しいからさ。
君を巻き込もうと思ったんだけど。
失敗しちゃったなぁ。
もし私がいなくなることで、君を苦しめるなら申し訳ない。
ごめんね。