「死にてえなぁ」
 私はそうつぶやいた。
 全く話したことのないクラスメイトが聞いていた。
 彼はうろたえていた。
 可愛いと思った。
 私は彼のことが好きだ。
 私は誰かと一緒にいないと生きていけないタイプの人間だから。
 私と真反対の彼のことを、純粋にかっこいいと思った。
 だから最期に会いに来たのだ、君に。
 そう言ったら彼は驚くだろうか?
 もっと彼と一緒にいたい。
 だからさっきと同じセリフを、さっきより少し大きめの声で言う。
「死にたいなぁ」
 彼は激しくうろたえる。
 ものすごく可愛い。
 視線が泳いでるところが特に。
 そして彼は信じられないことを口にした。
「えっと、じゃあ一緒に死のう」
 え、と思う。
 びっくりしたし、うれしかった。
 でも、彼のこれからの人生を奪うことにかすかな恐怖を感じた。
「……でも、いいの?」
 不安だった。
 やっぱり今のなし、と言われるのが怖かった。
「いいよ。どんな方法で死ぬ?」
「練炭自殺がいい」
 私は即答だった。
 家でもう準備をしているし、一番苦しくなく死ねると思った。
「でも、いいの?」
 ただ純粋に疑問だった。
 なぜ私なんかと一緒に死のうと思ったのだろう。
「大丈夫。僕は君と一緒に死ぬよ」
 彼の答えは私の質問に答えるのではなく、自分に言い聞かせているように感じる。
 申し訳なさもありつつ。
 しかしそうまでして私と死のうとしてくれている彼を、とても愛おしく思った。
「じゃ、私の家行こっか」
 少しの沈黙。
「え、え?家に?
 彼はうろたえていた。
 本日三度目のうろたえ。
 やはり何度見ても君は可愛いね。
「うん。だって私の家に準備してるし。部屋も窓の隙間とかガムテープでふさいでるし。ウチしかなくね?」
 ちょっとチャラめの口調で言ってみた。
 深夜テンションならぬ死の間際テンション。
「なるほど。じゃあおじゃまします……」
「ははっ。そんなかしこまらなくていいよ~」
 彼は敬語だった。
 ちょっと心の距離を感じる。
 移動中は無言だった。
 その間、なぜ私はこんなにも死にたいのだろう、と考えていた。
 そんな正当な理由があるわけじゃなっかった。
 ただずっと、この死にたいを抱えて生きていたくないだけ。
 私は疲れたのだ。
 死にたいを抱えて生きていくのに。
 そんな曖昧な理由で、大切な人を殺しても良いのだろうか。
 そんなことを考えていると私の部屋についた。
「部屋汚いけど、気にしないでね~」
 彼が来るんならもっときれいに掃除しておけばよかった。
 どうせ死ぬのならと、七輪以外を端によけたのもいけなかった。
 今更だが。
「おじゃまします……」
 彼がそうつぶやいた声が聞こえた。
部屋に入ったことを確認すると、ドアの隙間をガムテープでふさぐ。
 ガムテープを貼るのも上手くなったなぁとぼんやりと思った。
 もう後戻りできないように。
 きつく強く。
「それじゃあ、はじめようか」
 私はそう言って七輪に火をつける。
 ふと気になったことを質問してみる。
「ねぇ、私たちが死んだら何か大きなニュースになると思う?」
 中高生の自殺なんてテンプレートだからな。
「さぁね。でも、見出しは予想できるよ。‘高校生2人自殺 心中か’とかどう?」
「あははっ。たしかにありそう」
 それきり私たちは黙ってしまう。
 かすかだが、確実に息苦しくなってゆく。
「ねぇ、なんで死にたいの?」
 彼の口が開く。
 空気が凍り付くのを肌で感じた。
 でも、正直に言うのはバカらしくてはぐらかした。
 バカらしくて、というか申し訳なくて。
「んーと、秘密?」
 凍っていた空気がとけていった。
 はぐらかしたのは間違いじゃない、と空気が教えてくれている。
 疑問形なのは、私なりの優しさだ。
 相手の好きに想像させる優しさを残すことの大切さを、生きる上でひしひしと感じていた。
 けどきっと、君は気づかないんだろうね。
 知らないまま死んでいく。
「私たち、そろそろ死ぬね」
 私は笑顔だった。
 君と一緒に死ねて、私の人生は幸せだった。
 「おやすみ」
 彼が言ってくれた。
 ふと見た彼の横顔は今まで見た何よりも美しく、かっこよかった。
 もう少しだけ、眺めていたいなぁ。
「うん。おやすみ。」
 今日はいい夢見れそうだ。
 そう思いながら眠りについた。