誰にも奪わせない。俺だけの結衣。
 
 だけど、現実として俺はただの幼馴染。 この穏やかな関係から一歩踏み出す勇気がまだ出ない。でも気持ちは膨れ上がるばかり。矛盾に矛盾を重ねた状況に行き場のない怒りが募る。マジでどうすればいいんだよ。
 
(…………わかってる。わかってるとも)

 告白すればいい。想いを告げればいいんだ。どう結果が転ぼうとも、男たるとも踏ん張れ。うじうじ迷っているなんて俺らしくないけど、一世一代の大勝負を決断するにはそう簡単にはできなかった。

 いつから好きだったとかは記憶にない。たぶん気付いたら好きだった。
 好きにたぶん理由なんてない。好きだから好き、単純な話だと思う。
 
 結衣は鈍感だから気付いてないけど、他の奴らは俺が結衣を好きなことに皆気付いている。

 考えたくもない妄想が不意に脳を掠める瞬間がある。
 それは――結衣が俺以外の男と付き合う最低最悪な結末。
 可愛い声も。優しさも。無邪気な笑顔も。

 全部、俺から離れていくこと。

「馬鹿だな。俺」

 ……だっせぇよ、俺。何が怖いだよ。何が関係を壊したくないだよ。
 それは、ただ自分に保険をかけているだけだ。逃げ道を生み出しているだけだ。
 現実から目を逸らして、自分の気持ちに蓋をして、ぬるま湯から出ないだけ。

 確かに告白し、振られたら俺と結衣の関係は大きく変化するだろう。
 でも、俺は。俺は。幼馴染から――恋人にステップアップしたい。
 
 向こうが俺に恋心を抱いていないことなんて誰よりも俺がわかっている。でも諦められるはずがない。これからも結衣の人気は上がり続け、モテることはもはや確定事項だ。ならば、それまでに先手を打たねば。

 俺は結衣に沢山助けられた。結衣は俺の全てなんだ。
 もどかしい。じれったい。恋なんて単純なのに、どんな数式も難解だ。
 好き、付き合って欲しい。ただそれだけが遠くにあるようだ。

 けど、そこに辿り着かないと俺は一生後悔する。
 怖い、怖い、だが、逃げたくない。逃げるなんてありえない。
 
(俺は……結衣に、告白する)
 
 ……告白する場所。時期。言葉。練習。
 考えるだけで心臓がきゅっと掴まれるような錯覚に陥る。
 視界が狭まっていくようで、倒れそうになる。

「……我妻? なんだか難しい顔してるよ?」
「別に。なんでもねーよ、ちょっとな」

 下校時、茜色の街並み。夕映えが目に沁みた。
 けど、それ以上に結衣の顔が眩しかった。
 思わず、抱き締めたくなるほどに。