それに、我妻が誰かと付き合ったことはないと思う。
 いやまぁはい、それは私も何ですけど。
 ただ、ちょっぴり気になってしまう。

 これでも私と我妻は健全な高校生。周囲で恋愛を謳歌している子も多い。
 ただ、私と我妻には現在に至るまでその手の話がひとつたりとも浮上してこない。
 私は地味だから仕方ないとしても、我妻に関しては冷静に考えて違和感。

 それに一緒に居るのが当たり前すぎて、我妻とは恋バナとかしたことがない。……実は好きな人がいたりして、幼馴染みとしては応援しますとも。我妻の不器用な性格を受け入れてくれる子だったら尚良しとします。
 しかも、ここのところ実は個人的に悩みの種が増えつつあった。

 それが我妻を堪能した女子陣から突き刺さる私への視線だ。
 なんだったら私の方をちらちら見ながら会話する始末。

「……ねね、あの子って」
「あぁ、幼馴染みの柚原さん?」
 
 名前までバレてる!? 私はびくっと肩を震わせた。
 絶対に「なんであんな地味な子が」とか思われてるに違いない。……うん、そりゃあそうだ。知らない人からすれば、私と我妻では吊りあっていない。もちろん私が格下。女子からすれば面白くないだろう。

 中学時代に私を恨んでいる女子数人に呼び出されたこともあった。
 ありえない。付き合っていないと伝えたのに納得してもらえず大変だった。
 寸でのところで我妻が間に入ってくれなかったら大事に発展していた可能性さえある。

 昔っからそうだ。ドジな私を助けてくれた我妻。
 かっこいいヒーロー。それが私から見た我妻。
 とにかく、私と彼は恋愛関係にない。

「いっつも登下校一緒だよね。羨ましい」
「ほんっと。私も彼女みたいな――」

 と、そこで私は彼女らの視線と会話内容が怖くて俯いてしまう。
 加えて会話を聞かないように努め、耳をシャットアウト。
 朝からストレス値が右肩昇りであった。

「可愛い顏に産まれたかった! なにあのスタイル!?」
「アイドルみたいだよね。そりゃあ私らみたいな平凡とは話さないわけだ」
「あのふたりが眩し過ぎる。何食べたらあんな痩せるのあの子っ!」

 憂鬱になってしまっていた私の耳に、その会話が届くことはなかった。
 更に加えて言うと、口角をほんの少しだけ吊り上げた我妻の顔に気付くこともなかった。