私と我妻が通う高校は、家からそんなに遠くない。徒歩でニ十分程度。
 ふたりでの登下校自体は慣れたもの。だけど、この視線の量には慣れそうにない。
 というか年々増しているような気さえして私の胸中は緊張の二文字。

 原因は言わずもがな、飄々とした態度で隣を歩く我妻。
 我妻は小学、中学、高校と、繰り上がるにつれ恰好良くなった。
 幼馴染みの贔屓目で抜きで、彼はイケメンだ。モテモテなのも理解できる。

 切れ長の瞳はクールで、高身長。スタイルもモデル並み。しかも成績も学年一桁常連ときた。子供から続けてきたテニス部では一年生なのに、既にエース扱いと聞いた。神様ってば彼に色々と与えすぎでしょ!?
 もはや欠点らしき欠点がない。本当に朝が弱いことくらいかも。

 我妻を見ようと他校の生徒までたまに訪れるくらいの人気者。
 いっつもアイドルみたいに女子の視線を独り占めしている。

 そうして、私と我妻が正門を抜けると黄色い声が一際大きくなった。
 耳に届く声は、もちろん一様に我妻を誉めそやす内容だった。

「我妻君よ! 我妻君が来たわ、朝から見れるとか幸せ……!」
「え、今日更にビジュ爆発してない!? 本当に尊すぎ!」

 その場にいた女子生徒全員が我妻を見ながら盛り上がっている。
 告白されそうな勢いさえある。だが、現実は誰も我妻に話しかけない。
 ただ、その理由は至極単純だった。……私はちらりと横目で我妻を見る。

「我妻君と付き合えたら死んでもいい」
「いやいや無理だよ。まず話すのも難しいのに」
「……だよねぇ。塩対応の氷王子」

 まさしくその通りである。我妻は他人にあまり興味がない。
 言い換えるなら愛想がない上にぶっきらぼう。元々言葉数も少ない方だ。
 具体的には、勇気を振り絞って話しかけてきた女子を無視したり、冷たく言い返したり。一応、男子に対しては普通なんだけどねぇ。……だから女子が苦手、あるいは嫌悪しているという噂が広まっていた。

 それが周知の事実なので、我妻に近づく女子は存在しない。
 高校生活がスタートして数か月なのに、彼はある意味で浮いていた。
 それを体現するかのように、我妻は周囲の言葉を聞いて、

「……うっせ」

 ぼそっと煩わしそうに呟いた。心底迷惑しているといった様子だ。
 私が「声出てるよ」と囁くと「別にいいだろ」との返事。思わず苦笑い。
 たぶんだけど、普通はモテてたら嬉しいって思うんじゃ?