引き続き叉優side
(隣国=芥梨─かいり)

──黒子が処刑される
処刑の日は3日後の正午。国民の憂いを晴らす為、国の中央の広場で、姫は断頭台に立たされる。
なんで、私が居ない時に。




違う。だからだ。
もし、黒子が全部分かった上で私を隣国に向かわせたのだったら、色々と辻褄が合う。城を出る日に、使用人と全然すれ違わなかった事にも、璃百の宿に芥梨以外の客が多かった事にも。使用人を全員逃して、対象である自分と、保険のある椿月だけを残す。そんなのただの自殺じゃないか。でも、私はどうすればいい?一人で、何を成せる?

璃百「最後まで話、聞いてよね」
叉優「璃百!?」

突っ立つ私の肩に手を置いて、笑顔でそう言った宿屋の彼女は、言葉を続けた。

璃百「私はRook。異能は『月夜の星光』──一定時間三人まで、幽霊…透明人間にさせる事ができる。勿論自分自身もね」
叉優「!!」
璃百「まずは城の中の黒子の部屋に行くよ。黒子の事だし、何かあるかもしれない」

私はとんでもなく心強い助っ人を手に入れた様だ。璃百に目を瞑ってて、と言われ、素直に従う。璃百が何かをブツブツ唱えた後、バチッと静電気のようなものが体に走った。許しを得て目を開けると、目の前には変わらず璃百が立っていた。

璃百「透明になってる人と人は互いに見えるんだよ。ほら、試しに他の人の前でなんかしてみて?」

璃百に言われた通りに近くの人の目の前で手を振ってみる。反応があるどころか、視線すら映らなかった。数人に同じ事を試してみたが、結果は全て同じだった。

叉優「凄い!本当に透明人間になってるよ!」
璃百「でしょ?正確には幽霊状態だから、物を貫通できるよ。」
叉優「いいとしいってもこういうのは楽しいね!」

璃百の目に映る私は子供の様に目を輝かせていた。璃百と共に城に入り、2階の書斎の隣にある黒子の部屋に入った。

叉優「やっぱ、革命なんだから、めちゃくちゃになってるね…」
璃百「…そうだね。とりあえずさがしてみよ。みんな姫を捕えられればいいからって、特に周りを物色はしてないだろうから」

広い部屋の左右を分担してさがしていく。どれだけ探してもこれと言った物は出てこなかった。少し休憩しようかと、その場に座ろうとした時

叉優「え、これ…」

凝視しないと分からない程微かに、カーペットの色が変わっていた所があった。そこそこの量の液体を零したようなシミ。でも私がこの城で過ごした12年間、1度も液体を零した覚えはない。ならこれはいつから……

璃百「ねぇ、この本だけ変な直し方してたんだけど、これ何かわかる?」

一人推理していた私に、右側を整理していた璃百が本を差し出した。くすんだ藍色の表紙の小説。これはいつも黒子の机の引き出しに置いてあった小説だった。間違いない。そう伝えると場所を教えて欲しいと頼まれた。

璃百「この引き出しか。開けていいよね」
叉優「なんで私に聞くの?いいよ」

少し重い取手を引く。鍵はかかっていない様で、スムーズに開けることができた。中には一通の手紙らしき紙が入っていた。レターセットなどではなく、ちゃんとした便箋のものだ。近くにあったペティーナイフでそっと開けてみる。書いてあった内容は──

璃百「白紙……?」
叉優「いや、1枚だけ普通に字が書いてあるよ」

5枚中、4枚は白紙。唯一字が書いてある便箋には、椿月の異能と、体の弱いこと、担当医者だけは付けてあげる様に。そう書いてあった。これは、勘が当たってしまったようだ。

璃百「まだ探す?」
叉優「いや、これだけで十分。」

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璃百「…じゃあ、後は本人に話をするだけだね。それは叉優に任せるよ。言いたいことあるんじゃない?」
叉優「うん。ありがとう」

途中で璃百と別れ、地下牢へ続く階段を下る。この国で1番頑丈な牢といえば、城の牢に決まっている。明後日までは黒子の命は保証されるし、話し合いくらい出来るだろう。あわよくば説得も。

叉優(ここ、だよね)

広い広い地下牢の1番奥の暗い所に、そのほの暗さに溶け込むように黒髪が浮かんだ。そんな暗がりでも、黒子のマラカイトとルビーの瞳だけは、輝いて見えた。

叉優「…黒子」
黒子「……5日間は帰ってこないでって言わなかったっけ?」

『月夜の星光』で透明になり、私が見えない筈なのに、黒子の目は真っ直ぐに私を見ていた。普段ならむず痒く思っていたその視線を押しのけるかのように、便箋を黒子に差し出した。その時に、タイミング良く璃百が異能を解除した。

黒子「……」
叉優「取り敢えず、私の考察を聞いて。」

黒子は私を見送った日、時間をずらして全ての使用人を同じように隣国に送っていた。七国それぞれの宿に予約と、事前に料金だけ払って。それは、革命が起きて自分が処刑されるまでの日にちを全て計算した上での事。最近妙に人の首がはねられていたのも怒りを積もらせる為で、暴君な姫は全て演技なのでは無いのか。ちょくちょく他の使用人に言われて部屋を開けていたのは、誰かに指示を出されていたからではないか。

黒子「…そこまでたどり着いたの?流石、私の専属使用人。性別さえ違ければ嫁にしたかったわ」
叉優「それと一つ。黒子は姫じゃないでしょ」
黒子「……はぇ?」