一話

家来「〜で、〜〜で、ございました」
姫「…下がれ」
家来「は、はいぃ!」

バタン

怯えながら下がる家来に内心面白いと思いつつ、玉座に身を委ねる。暫くそのままでいると、「だらしない」と小言を言いながら入ってくる人影が一つ。肩まで降ろし、一房だけ三つ編みにしている茶髪を優雅に感じさせるのは、彼女から溢れ出るオーラのおかげだろうか。彼女はただ今玉座に(だらしなく)座る姫、専属の使用人であった。そして、姫の本性を知る数少ない友人の一人でもある。使用人──鈴風叉優の持って来たティーセットをかっさらって自分で湯を沸かしているのは、姫である黒子彩香である。

叉優「あ、ちょっと!私の仕事!!」
黒子「いや、こんくらい自分でしまーす。」

先程まで険悪な顔で玉座に座っていた人間だとは思えない程緩く会話する黒子を止めるのを早々に辞めた叉優はティーセットと共にもってきた資料を黒子に差し出す。「また仕事…」と言葉を零す黒子の手元では、香りの良いアールグレイが出来上がっていた。その片方を受け取りながら、叉優は話を続ける。

叉優「椿月、体調良くなってきてるよ」
黒子「…それはよかった」

張り詰めた空気がすっと軽くなるように、黒子の表情が明るくなった。椿月とは、黒子の腹違いの兄妹だ。体が弱く、あまり外に出ることもないため、公には出ていない。椿月のことを見ているのも叉優なのだ。なので、こまめに叉優を通して椿月の様子を聞いていた。腹違いとはいえ、幼少期、共に育てられれば、血の通う兄妹の様に接するだろう。実際、黒子も椿月も、お互いを兄妹として認識したまま、塗り替えたことはない。

黒子「…後で、部屋行こうかな」
叉優「先に仕事だよ…?」
黒子「わかってる!!」